上海生活たより⑤ 中国国内旅行 2024.03.07 人文学部歴史文化学科教育・研究 # 考古学コース# 民俗学コース# 歴史学コース

上海滞在もあと少しになりました。これが最後のたよりです。最後は、上海から離れて、旅行に出る話にしましょう。中国では国内旅行にも、日本といろいろ違うところがあります。

まずは上海から出るために、駅や空港に行くところからです。というか、上海市内の移動は旅行というより日常生活の範囲内ですね。市内の移動は何といってもメトロ(地下鉄)が安くて便利です。たとえば私の最寄り駅から上海虹橋駅までは約30km、時間にして1時間あまりかかりますが、料金は5元、日本円で約105円です。中国では、だれもが利用する地下鉄やバスの料金はとても安く抑えられています。こういうところで中国は自由主義経済ではなかったのだと実感します。さて、料金の支払いは、自販機で切符を買ったり(実際にはほとんど見かけませんが)、プリペイドカードがあったり、スマホアプリがあったりと、日本と大きく変わらないかなと思います。ただ日本人なら戸惑うだろうと思うのは、改札を通る前に安全検査があります。荷物はX線の機械に通して、人は検査のゲートをくぐり、場合によっては警備の人にしゃもじのような機器で撫でられます。すべての地下鉄の駅がそうで、朝夕のラッシュのときもみんなこれをやっています。

さてこの先ですが、飛行機を使う場合は日本とあまり勝手が違わないかも知れません。一方、鉄道を使う場合は日本と違うなと感じることがきっと多いでしょう。ですので、鉄道の旅をたどることにしましょう。

中国では、日本の新幹線にあたる都市間高速鉄道が、この20年ぐらいの間に驚くようなスピードで整備されました。いまもどんどん拡充中です。人びとは「高鉄(カオティエ)」と呼んでいます。その高鉄の駅は、どこもとても大きいです。線路・ホームを覆うようにその上の層がとても広い待ち合いホールになっていて、到着者出口が線路・ホームの下にあるという3層構造の場合が多いです。乗客の流れは一方通行で、列車から降りた人は出口に向かうだけで、待ち合わせの客と一緒になることはありません。それでその各層がとても高かったりするので、駅の中での移動が一苦労と感じることも多いです。コンパクトな駅に慣れた日本人のやっかみかも知れませんが。

まず駅に入るには身分証が必要です。中国国民はICチップの入った身分証(マイナンバーカードのようなもの)を使い、自動改札のようなゲートで顔をカメラに認識させて通りますが、外国人の場合はその端にある有人ゲートに行ってパスポートを出し、チェックを受けて進みます。ここでまたも荷物・身体の安全検査があり、これを済ませてやっと駅の中、待ち合いホールです。

鉄道の乗車券はもちろん駅でも買えますが、事前にネットで購入することが多いでしょう。もちろん中国には乗車券を購入するためのサイトが整っていますが、実は日本人でも簡単に買えるサイトがあります。完全に日本語で、支払い通貨は日本円、もちろんクレジットカードが使えます。これはとても便利だと思っています。乗車券の価格はやはり安いです。高鉄で日本の半額くらいのイメージで、高鉄でないいわゆる在来線はもっともっと安いです。これも国策によるものでしょう。鉄道の乗車券を買うときに日本と大きく違うのは、身分証、外国人の場合はパスポートが必要なことです。要するに、だれが乗車するのかを特定する必要があります。その代わり乗車券は発行されず、身分証が乗車券代わりになります。改札では身分証を認証し、列車を降りて駅に出るときにも身分証を認証します。これらいずれも自動改札のようなゲートになっており、外国人の場合は端の有人ゲートに行ってパスポートで認証を受けます。

実は、以前はこうではありませんでした。日本と同じように無記名の乗車券で改札を通って乗車し、下りて外に出るときは日本より楽で全くのノーチェック、切符を渡す必要がありませんでした。高鉄の普及に応じるようにずいぶん変わりました。身分証で利用者を管理するのは、国際線の飛行機を利用するかのようです。

目的地の駅に着いたら、そのままホテルに向かうことも多いです。というのは中国のホテルのはかなり早くからチェックインができます。チェックアウトはその逆で、12時とか午後2時までホテルの部屋を使うことができます。これはありがたいです。

ただし、外国人の場合はホテルを決めるときに注意が必要です。外国人が泊まれるホテルを選ばなければなりません。中国のホテルは、いずれの国の人も可、中国人と香港・マカオ・台湾の人は可、中国人だけが可などに区別されています。都市や地区によって異なるのでしょうが、外国人が泊まれるホテルは意外に少なく、全体の何分の一しかないようです。

ホテルに着きました。ここでも身分証が必要です。中国人の場合は専用の機械に身分証を当てて顔写真を撮ります。外国人の場合はパスポートだけで顔写真の撮影はないのですが、パスポートは必要ページのコピーか写真がとられ、公安に届けられます。きっと宿泊客の中には家族に内緒の旅行などということもあると思いますが、家族に内緒にすることはできても当局には知られてしまいます。もちろん当局は治安のためにそれをやっているわけで、各家庭のことなど気にはしていないでしょうが。

中国ではコロナが明けて個人旅行が復活し、いろんなところでオーバーツーリズムが起こっていると聞きます。実際、私も列車の切符を確保するのに苦労することがありました。この点は日本と同じかなと思いますが、旅の各場面では紹介したように日本と違うところがたくさんあります。日本を基準に考えれば、面倒や窮屈に感じるところが多いと言えるでしょう。ただしこれらについては、治安確保のために行われていることとして、中国の人びとは意外と納得しているのかも知れません。日本でも地下鉄や新幹線そしてホテルで大きな事件がたびたび起きています。中国並みの体制をとれば、それらは防げたかもしれません。ただし日本はそのようになっていません。その理由には大きなコストがかかるという現実の問題もあるでしょうが、人びとが必ずしもそれを指向していないということもあるでしょう。どうして中国と日本はこんなにも違うのか、その背景には両者のの歴史や文化が大きく関わっているはずです。

以上、最後はかなり強引に「歴史文化」に引っぱり寄せましたが、これでこのたよりのシリーズを終えることにします。(2024.03.03 小田木治太郎)

追記:実は旅行で訪れる先として博物館を取り上げて記述を続けるつもりでしたが、すでに予定していた字数を超えてしまいました。その話は、博物館学関係の授業の中で紹介できればと思います。

地下鉄の安全検査:
飛行場ほど厳しくはありません。誘導する人、X線画像をチェックする人、身体を検査する人と、どこも最低3人の係員がいるんじゃないかと思います。荷物の中に飲み物を入れていると、たまに目の前で飲んで見せろといわれます。
大きな駅:
特に大きいと思った駅のひとつ、広州白雲駅。駅前の広場をたっぷり歩いてやっと中に入ったらこのホールです(画面左の外が駅前広場)。両サイドのエスカレータで上がった先が、出発待ち合いホールのある階です。エスカレータで登る最中に撮影しています。
上海虹橋駅の待ち合いホール:
上海の鉄道の玄関口になる駅。さすがに利用客が多いです。ここに入る前に、身分証チェックと安全検査を受けています。このホールの両サイドにプラットホームごとの改札が並んでいます。
高鉄のプラットホーム:
大きい駅はプラットホームが20かそれ以上あるようです。改札は列車が出発する15分前ぐらいに開くだけですので、しばらく列車が来ないプラットホームには人影はありません。
水・お湯ステーション:
中国では、駅や空港、博物館など、どこに行っても、飲料水と熱湯の提供があります。多くの人が保温ポットを常時持ち歩いていて、いろんなところでお湯を補給しています。お湯は公共が提供すべきものと考えられているようです。
街なかの公衆トイレ:
日本に比べて公衆トイレがとても多いように思います。商店や食堂に行ってもトイレがないことが多く、街なかでは公衆トイレを利用することになります。これも、公共が提供するものなのでしょう。たいてい担当の人が詰めていて、常に手入れされています。

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