上海生活たより④ スマホ決済仲間入り 2024.03.05 人文学部歴史文化学科教育・研究 # 考古学コース# 民俗学コース# 歴史学コース

前回はスマホ決済が普及した社会の話をして、私もその仲間入りを果たしていることに触れました。今回はその続きです。

 ちなみに前回、私は中国のスマホ決済を「とても便利です」と言い切れる境遇にまだないとも言える、とも言っています。それは、中国の銀行口座がないためにいくらかの制限があるためで、それらは中国で生活をするにはわりと重要なポイントなのですが、愚痴っぽい話になるのでもう触れないでおきましょう。

 とにかく私もいまはスマホ決済の手段を手に入れ、毎日のようにそれを使い、とても便利に感じています。この文章を書くにあたり、この「とても便利に感じる」理由を改めて問い直してみました。その第一の答えかなと思うことは意外と単純で、生活における支払いがこのスマホ決済に一本化していることではないかと思います。どのような商店に行っても、どのようなところで食事をしても、どのような交通機関を利用しても、ネットショッピングのときも、また家賃のような比較的高額なものも、すべてスマホで支払います。現金もクレジットカードも出番がなく、本当に財布の存在を忘れてしまいます。また銀行振込や郵便振替に足を運ぶこともありません。

 日本では、現金を含めてさまざまな支払い方法があります。支払いを受け取る商店や企業は複数の受け取り方法を用意しており、利用者はさまざまに使い分けを行っています。とても選択肢が多く自由です。一方そのために、お店に行って「どの方法を使おうかな」と迷ったり、ときには「○○は使えますか?」「△△しか使えません」などというやりとりであたふたすることもあります(私はよくそうなります)。また、いろんなパターンに対応するお店の人のスキルはすごいなと感心もします。中国にもスマホ決済の種類はいくつかあるみたいですが、2つの大きなシステムにほぼ収斂しており、両者はどこでも使え、使用方法もほぼ同じです。利用者はどちらかひとつで基本的に事足り、あれこれ考える必要がありません。お店もどのシステムを用意しようかと考える必要がないでしょう。この考える必要がないというのが、最大の便利さなのかなと思うのです。

 自由で多様な分、複雑で悩ましいところもある日本と、大きなものにまとまって選択肢はないがむだがない中国。ここでの話題はお金を支払う方法のことなのですが、もっと大きな、国民性や国の体制などとも関連するところがあるように見えて、なかなか深遠です。

 スマホ決済ができるようになって特に便利になったのが、ネット通販を利用できるようになったことです。ネット通販自体はスマホ決済とはまた別のものですが、私にとってはスマホ決済ができるようになってようやくネット通販ができるようになったので一体です。宅配の荷物をたびたび受け取るようになってそこで気付いたのですが、街には宅配便の配達員の人がいっぱいです。上海では宅配便の配達はみなバイクで行っているようです。バイクの荷台にちょっと信じられないような大きな箱をつけて、街を往来しています。人が多いところも狭いところも器用に通り抜けていく姿はまさに職人技で、ほれぼれと見とれてしまうほどです。そうやって見とれている間にまた気付いたのですが、宅配便の中継所が街に点々とあり、そういうところではときには路上にあふれ出して荷物の仕分けをしています。利用者の便利さの背景にはそれを提供する人たちの努力や工夫があるわけですが、その工夫が日本ととても違うなと感じます。

 タクシーも便利です。スマホ決済アプリで出発地と目的地を入力するだけで配送可能な車のグレードと値段が複数表示され、その中から一つを選んで即支払い、あとは乗って下りるだけです。タクシーはどの街のどこで呼んでもびっくりするぐらいにすぐに来ます。システムのマッチング機能が優れているのだろうと思いますが、それ以前に、走っているタクシーがとても多いのでしょう。

 スマホ決済の便利さをお話しするつもりが、どんどん話がずれてきました。スマホ決済を利用できるようになって感じる便利さの後ろには、もうひとつ、サービス自体の厚さがあるようです。宅配便を配達する人の多さ然り、タクシーの多さ然りです。そう言えば、どこのお店に行っても店員さんが多くいて、すぐに声をかけられます。またそう言えば、復旦大学の警備の人もたくさん見かけるし、食堂に行ってもフロアーにスタッフの人が大勢います。日本ではずいぶん前から人件費削減が叫ばれてあらゆる現場で人数が減らされ、そして最近はさまざまな職種で人手不足が深刻化しているといいます。日本と中国では、労働者人口とその配分の在り方が大きく異なっているようです。その背景を考えると、日本と中国では「十分な量」の捉え方が違っていたり、もっと言えば便利さや幸せに対する考え方が異なっていて、それを生み出すための方法論も異なる、などという大きなことがあるのかなと思ったりします。スマホ決済という中国の消費活動に仲間入りをしたおかげで、いろんなことを考えます。

(2024.02.06 小田木治太郎)

スマホ決済アプリの画面:
中国のスマホアプリは「WeChatPay/微信支付」と「Alipay/支付宝」に収斂しています。画像はAlipay国際版。外国のクレジットカードに紐付ける場合は、この「国際版」と外国のスマホという組み合わせでないと動きません。英語ですが使う機能は限られていますので、そんなに難しくはないです。
宅配便センター:
このようなところが街のそこかしこにあります。暗くなっても大忙しの様子です。
路上での仕分け作業:
届く荷物がとてもほこりっぽいことがあるのはこういうことか、と納得しました。
わが小区の置き配ボックス:
大小かなりの数のボックスがあります。中央の液晶パネルのメニューに従って、ショートメールに届いた番号を入力すると開きます。受け取りが遅くなると遅延金がかかり、それもスマホで支払います。
復旦大学北門脇の出前受け渡し場所:
学生が頼んだ出前が次々と届きます。出前代行の人は大学構内に入れないので、ここに配達するわけです。鍵付きのボックスがあり、これもスマホで操作するようですが、その外にもたくさんのものが並んでいます。

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