上海生活たより①(小田木治太郎) 2023.10.23 人文学部歴史文化学科教育・研究国際体験 # 考古学コース# 民俗学コース# 歴史学コース

特別研究員制度で上海・復旦大学に来て、ひと月が経とうとしています。ようやく生活の方面も安定してきたところで、これまでに私なりに興味深く感じたところを紹介してみようかと思います。

上海での生活にあたり、まずクリアしないといけないのは住居の問題でした。日本でもよく紹介されるように、中国では不動産価格が過激に高騰しており、中でも上海はその頂点にある都市です。ですので少し心配しましたが、何とかそこそこ暮らしていけるアパートを見つけることができました。

上海の人びとは、小区という単位の中で暮らしています。私が居を得た小区は6階建ての建物が4棟あり、100世帯ぐらいが暮らしているんじゃないかと思います。おそらくこれは小さい方で、近くには40棟以上からなる小区もあるので、小区と言っても大きさはさまざまなようです。小区の中の住居にはそれぞれに所有者(正確には使用権保有者)がいて、私はその所有者と契約を結んで借りているわけです。

小区は高い塀や柵で囲まれた、閉ざされた区域です。入口には鉄の門があり、その傍らには管理人詰所があります。私の住む小区では詰所は管理人さんの住居も兼ねていますが、どうやら大きな小区では管理人詰所が住居を兼ねることはなく、職員が交代で詰めているみたいです。ともかく、出入りにはチェックがあるわけです。夜中や管理人さんが不在のときは門には鍵がかかり、住人はICチップの鍵で門を開けて出入りします。

鍵はそれだけではありません。小区の中のそれぞれの建物の入口にも鉄の頑丈な扉があって、鍵がないとは入れません。扉にはインターホンのボタンがあって、来訪者は目的の部屋の番号を押して、中から解錠してもらいます。これは日本のマンションによくあるのと同じ方式ですね。そして、各戸の扉は立派で、廊下に面した台所の窓にはとても頑丈な鉄格子が着いています。このような何重もの障壁は、中国の住まいの特徴なのかなと思います。これらの門や扉はコロナ禍のときには、部外者の侵入を防ぐだけでなく、内部に人を閉じ込めるのにも「活躍」したのですね。

小区の入口:いまは門が開いているが、閉まっているときも多い。
建物の入口の扉:けっこう頑丈です。
建物の中の廊下:共用スペースは建ったころからあまり変わっていないようです。
廊下の配電ボックス:中国あるあるの、ものすごい配線のたば。LAN のハブ は光が点滅し、きちんと稼働してるようです。

私の小区では、建物は南が開いたおおよそ「コ」字形に配置されており、中央に広場があります。この広場はとても明るく、真ん中には高さ15mぐらいの大きな木が植えてあって、心が癒される雰囲気です。夏には快適な木陰になるのでしょう。いまはかなりの部分が車の駐車スペースになっていますが、何十年か前まではなかったことだと思います。小区には部外者は容易には入って来れないわけですから、この広場はいたって安心です。みんなが思い思いに利用しています。木のまわりを散歩する老人、自転車の練習をする子ども、サッカーのドリブルを繰り返す少年などなど。夜も、あるいは夜こそ利用する人が多く、健康のためでしょう、スマホ片手に何周も回っている人がいますし、子どものはしゃぐ声が9時・10時まで聞こえます。

中庭を見下ろす:4階の窓から。上海名物? 洗濯もの干し用のフレーム が少し邪魔ですね。
中庭のようす:下の低い木はモクセイ。いまはちょうど花の季節で、 いい香りを放っています。


私の小区の建物はすべて6階建てです。そしてエレベータはありません。近隣を歩いても6階建ての建物が多く、それらはみな古い建物です。どうやらエレベータのない建物の標準が6階建てだったようです。

住まいを探すとき、最初に紹介された4件のうち3件は6階建て建物の6階で、すべてエレベータなしでした。膝と股関節に難を抱える私には6階はかなり厳しいなと困り果てていたら、少し待てば引っ越す家があるからと4階の物件を紹介され、今の場所に入り込むことができました。本当に偶然でラッキーでしたが、そうでなければ毎日6階を上り下りすることになるところでした。私も故障がなければトレーニングとばかりに喜んで上り下りしたのでしょうが、そうもいきません。ただ、実際に体に難を抱えつつ6階に住まう人もあるのでしょう。小区暮らしのちょっとつらいなーと思う一面です。

おそらくこのような建物が古い小規模な小区は、今後、どんどん建て替えが進むんだと思います。周囲には大きい区画に、より高層の建物がたくさん並ぶ新しい「小区」もあります。建物には当然、エレベータがあるでしょうし、柵越しに見たところ、地上は草木が手入れされ、遊歩道が配置された公園さながらのようすです。そこには小さい小区とは異なる生活があるのでしょう。ただし、きっとお値段も……。私が提示した金額で借りられる物件は古手の小区しかなかったのでしょうが、私としては少し古い小区に住まうことで、上海市民の伝統的な生活ぶり(といっても急速に変化しているんでしょうが)を垣間見られるような気がして、少し嬉しく思っています。

大きい小区の入口:車用のゲートがあり、中は車が通れる道路が張り巡らされているようです。
大きい小区の柵:高い柵の上には鉄条網が張られています。なかなか念入りです。
ちなみに私の部屋:部屋の中はリフォームされていて、廊下と打って変わって近代的です。写真は引っ越し当初のようすで、スー ツケース2つから生活が始まりました。

 以上には、私が垣間見たことをもとに、かなりの想像が交じっています。誤解については容赦を。(2023.10.18 小田木治太郎)

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