《公開講座記録》【人文学へのいざない】第6回
●2024年6月29日(土) 午後1:30
●テーマ:人と関わる知恵~人生が豊かになる心理学~
●講師 金山 元春(心理学科 教授)
今回の講座は、講師と参加者、そして参加者同士が絶えずやり取りする参加型講座でした。いわゆる講演録では再現できませんので、ここでは講座の主旨を記載しておきます。
人間関係は相互作用
人は自分なりの「ものの見方」でこの世界を見ており、それがその人の行いに反映されます。そして、ある人の行いは別のある人に影響を与え、それが連鎖していくと、そこに特有の状況が生まれます。つまり、人と人との間で生じることは、そこに関わる人々の影響の及ぼし合いの結果なのです。これを「相互作用」といいます。
うまくいっている状況も、その状況に関わる人々の影響の及ぼし合いの結果ですし、うまくいっていない、つまり「問題」とされる状況も、その状況に関わる人々の影響の及ぼし合いの結果といえます。そうした状況を変えたいのであれば、相互作用の中にある誰かが変わればよいのですが、それでは、誰から変わればよいのでしょうか。
私たちは人間関係の問題に直面すると、まずは誰が悪いのかをはっきりさせて、その人に態度を改めてもらおうとします。しかし、そうした関わり方は人間関係の軋轢を生んで、かえって状況を悪化させることがほとんどです。ですから、問題とされる状況に気づいた時には、その状況に関わる人々のことをどう見るのかという自らの「ものの見方」を変えて、その状況を共にする人との関わり方すなわちコミュニケーションを工夫していく必要があります。「どう考えてもあの人が悪いのに、どうして私が変わらないといけないの?」と言いたい時もあるでしょうが、結局は、自分から変わることが、好ましい変化をつくるための近道なのです。
心理学から学ぶ人と関わる知恵
私が専門とする心理学の世界には、人と関わる知恵として役に立つものの見方やコミュニケーションの工夫が豊かに蓄積されています。ここでは私が当日お話ししたことの一部をご紹介します。
人から何かを言われて「その通りだな。やってみよう。」と思えるかどうかは、話の内容はもちろんですが、それを誰から言われるのかにもよります。実際、Aさんに言われると納得して動けるのに、同じことをBさんに言われても納得できないことがあります。そこにあるのは「Aさんは信頼できるが、Bさんは信頼できない」という信頼感の差でしょう。当日は、若者に「信頼できる大人」に関して回答を求めた調査の結果を紹介しつつ、心理学を学んできた私が考える信頼関係の築き方についてお伝えしました。
信頼関係の築き方
以下、回答数が多かったものから順に紹介します。
第1位は「話を聴いてくれる」です。これは何でもかんでも「うんうん」とうなずいていればいいということではありません。頭ごなしに決めつける態度はいけませんが、分かった気になっている人も信頼されません。大切なのは相手を分かろうとする姿勢です。たとえ理解しがたいことがあったとしても、それを素直に認め、むしろ教えてもらおうとする姿勢が、相手からの信頼を得ることにつながります。
第2位は「認めてくれる」です。最近では褒めることが強調されがちですが、上から目線で評価するような態度は逆効果です。おすすめは「ありがとう」「うれしい」「たすかる」という「私の気持ち」を素直に伝えることです。
第3位は「自分の思いを語ってくれる」です。その場を取り繕うだけの、おざなりな対応では信頼されません。
第4位は「言うこととすることとが一致している(約束を守る)」です。言うこととすることがずれていては、信頼が崩れます。やむをえず約束を守れなかったという時もあるでしょう。そのような時も、それをごまかさずに認める姿勢が大切です。
第5位は「笑顔」です。「この人といるとホッとするな」という安心感が、「この人が言うのなら大丈夫だな」という信頼感へとつながります。