《公開講座記録》【人文学へのいざない】第4回 俄(にわか)の世界に触れる―お笑い文化の源流― 2024.07.02 社会連携生涯学習公開講座記録

《公開講座記録》【人文学へのいざない】第4回

●2024年6月15日(土) 午後1:30
●テーマ:俄(にわか)の世界に触れる―お笑い文化の源流―
●講師  松岡 薫(歴史文化学科 講師)

内容

俄(にわか)とは、大阪のお笑い文化を代表する漫才や新喜劇の源流ともされるが、現在、寄席で演じられることはほとんどない。その一方で、日本各地の祭礼のなかで、今でも演じられ親しまれている。本講座では、各地で伝承されている俄の鑑賞を通じて、その面白さや魅力を考えた。

俄について
俄は、即興の喜劇で、滑稽を主としてオチをつける芸能である。近世大坂の夏祭の風流として享保年間(1716-36)に始まったとされる。その後、俄師と称する専業者により芝居のパロディを題材とするようになり、明治にかけて舞台芸能として流行する。
芝居形式の俄は、大きく3つにわけられる。第1に、素人によって主に祭礼にて演じられる祭礼俄である。これは地方に伝播し、民俗芸能化していった。第2に、専業の芸人によって主に劇場で演じられる興行俄である。これは都市部で流行し、大衆芸能化していき、後の漫才や新喜劇へ繋がる。例えば、明治34(1904)に旗揚げした曽我廼家兄弟劇(曽我廼家五郎・十郎による芝居の一座。のちの松竹新喜劇へ繋がる)は、当時大阪で流行っていた俄を改良して新たな喜劇を生み出した。第3に、宴席の余興として演じられる座敷俄である。身近な道具を何かに見立てて演じる一口俄で、即興的な性格が強い。

各地の俄
講座では、(1)民俗芸能としての俄と、(2)専業の俄師(プロ)による俄について映像を用いながら紹介した。

(1)民俗芸能としての俄
いずれの俄も主に地区の青年たちによって祭りのなかで演じられる。全国に20ヶ所ほどあると言われているが、実態は不明なところも多い。西日本に多い。
本講座にて紹介した俄は次のとおりである。①岐阜県美濃市 美濃流し俄(国選択無形民俗文化財)、②高知県室戸市佐喜浜町(国選択無形民俗文化財)、③熊本県阿蘇郡高森町(国選択無形民俗文化財)、④大阪府富田林市、⑤福岡県福岡市。

(2)専業者(プロ)による俄
北部九州地方は戦後も俄人気が強く、興行活動を行う俄の一座(劇団)がいくつか存在した。そのなかには、博多淡海(博多俄)、筑紫美主子(佐賀俄)、ばってん荒川(肥後俄)など全国的にも知られる芸人を輩出した。ただし、近年では興行活動を行う俄の一座が存在するのは肥後俄のみである。いずれも喜劇を演じる一座で、各地の村の祭礼等で興行活動を行った。
講座では、熊本県熊本市を拠点として現在も活動するキンキラ劇団の公演を紹介した。

俄の魅力とは
最後に、俄の魅力について①一回的で即興的な演目・演技であること、②方言やローカルネタを多用することで、自分たちの笑いへ転化していること、③口上から始まり、落としで終わるという一連の芝居の型があること、という3つの点から述べた。
中央の寄席で演じられることはほとんどなくなった俄であるが、地方の祭礼においては今でも演じられ続けている。こうした上演が続いている背景には、楽しみ(娯楽)という側面のほかに、自らの手で自分たちが暮らす社会を表現する(ときに批判も交え)という民衆のエネルギーがある。それが俄の魅力であり、支持される理由となっている。

関連リンク

ページ先頭へ