「国語学演習(言語実態)」って、どんなことをしているの?
天理大学文学部の国文学国語学科のカリキュラムは、国文学・国語学の両方の分野をバランスよく学べる構成になっています。
今回は、3年次に開講される国語学演習(言語実態)を紹介します。
本学科では3年次になると、国文学・国語学のそれぞれの時代・分野から複数を選び、本格的な演習形式の科目を受講します。こうした演習をつうじて、自身でテーマを設定すること、そのテーマを深く掘り下げて考察することを実践します。おおくの受講生がこれらの授業をつうじて、4年次に取り組むことになる卒業論文のテーマをみつけることになります。
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では、「国語学演習(言語実態)」の授業をのぞいてみましょう。
「国語学演習(言語実態)」は、「話しことば(方言)」が研究対象です。そのため、まず、研究する資料を自分たちで集める必要があります。
近年では、コーパス(大きな文字データの資料体)による研究や先行研究で公開されているデータを使うこともありますが、基本的には自身の研究テーマに沿った今現在、話されている「ことば」を捕まえる方法(調査方法や調査票)を考え、自身で調査しなければなりません。また、その調査結果を効率よく研究資料として使うためには、PC上でデータベースとして管理し集計までをおこなう工夫をしなければなりません。そのため、授業はすべてPC室でおこないます。
この日は、「若者の関西弁の実態把握」のために令和元年度から天理大学や近畿大学の学生たちと担当の鳥谷先生が一緒に調査してきた関西に住む大学生のアンケート調査結果(477人分)を集計し、グラフ化しました。このアンケートの調査結果もすべてExcelに入力し、データベースとして管理しています。「若者の関西弁」の実態は、それらの項目をExcel上の集計機能を利用することで確認できます。受講学生は自分で気になる項目を選び集計します。
下の「グラフ1 ものもらいの方言 府県別使用率」は、授業内で集計方法をデモンストレーションしながら作成したグラフです。
この「ものもらい」の俚言を例にその先行研究を示せば、『日本言語地図 第3集』(1968)の「第112図 ものもらい(麦粒腫)」や『新日本言語地図』(2016)の「第29図 ものもらい-名称」などがあります。ただ、それらはともに高年層(それぞれ1903(明治36)年以前出生の男子・1940(昭和15)年3月31日までに生まれた人)の調査結果です。また、調査もそれぞれ約60年前・約8年前です。それらとの比較や『近畿言語地図』(2017)「第5図 ものもらい」(調査時65歳以上)と比較することで、方言の経年変化の実態を示すことができます。それらの報告と考察がレポートということになります。
また、秋学期にはGISソフト使って「言語(方言)地図」を作成します。下の「図1 ものもらいの方言分布」は昨年度の学生が実際に作図したものです。
秋学期にはグラフと地図を使ってPowerPointを用いて発表してもらい質疑応答を経て最終レポートにまとめてもらいます。
受講生からは、「回答の集計の際に、Excelを使いこなさなければならないのですが、先生が一から丁寧に教えてくださっているのでとても分かりやすく、作業がスムーズにできてとても楽しい授業です。」(Yさん)や「集計結果をまとめグラフ化する際に、今まで知らなかった関数やデータベース機能を使うので、統計力が身に付きました。」(Sさん)などのコンピュータ操作にかんする声のほか、「関西に住む大学生を対象にしたアンケート調査結果から、我々の世代が使用している関西弁がどのようなものなのかを具体的に知ることができ、たいへん興味深いです。」(Kさん)や「普段、我々が使っている言葉が地域によって、微妙に異なっていることを、この授業をとおして理解できた。今後のその要因をしっかりと考察したいです。」(Hさん)と、「話しことば(方言)」を研究する意味や意義についてしっかりととらえている意見が聞かれました。
担当の鳥谷先生は「この授業をとおして「ことば」の仕組み(システム)を理解し、「ことば」が変異する実態から変異する要因を「ことば」そのものに内在する法則や社会との相関から考察してほしい」といっていました。また、「実社会で必要不可欠であるコンピュータ。とりわけExcelの実践的スキルを身につけ、将来、社会で活躍してもらいたい」とのことです。(人文学部国文学国語学科 鳥谷善史准教授)
*鳥谷准教授は国文学国語学科の卒業生で、天理大学を卒業後、高等学校の教員を経て現在にいたります。