《公開講座記録》【人文学へのいざない】第5回 教育と地方創生 2023.06.24 社会連携生涯学習公開講座記録

《公開講座記録》【人文学へのいざない】第5回

●2023年6月24日(土) 午後1:30
●テーマ:教育と地方創生
●講師  岡田 龍樹(人間関係学科生涯教育専攻 教授)

内容

わが国では、少子高齢化傾向はとどまらず人口減少を止める目途が見えない状況が続いている。これに対して「地方創生」が叫ばれ、それぞれの自治体において独自の取り組みが求められ、その中で地域における「教育」の役割が期待されている。

地域・社会という視点から見たとき、近年のわが国の文教政策は次の4つの側面から特徴づけられている。1つは生涯学習の推進である。個の充実(Quality of Life)と他者への支援という方向で進められている。2つは学校と地域の協働である。コミュニティスクール(学校運営協議会)の設置と地域学校協働活動の推進である。3つは地域自治と教育の地域移行。部活動の地域移行に象徴されるように、働き方改革のもと、これまで学校が抱えていた教育機能の一部を地域へ移行することである。4つは地域住民の教育への参画である。地域の課題解決には教育の力が必要であり、その取り組みによって教育自体も再生されるという期待である。

それらは、法的には、70年代から各審議会の答申を経て、改正教育基本法や地方教育行政の組織及び運営に関する法律が根拠となっている。また、2014年にでた日本創成会議の「2040年までに896の自治体が消滅する」というショッキングな報告、通称増田レポートが大きな影響を与えている。

地域で教育を支えていくことは可能なのか。また学校教育にまかせることなく地域住民が教育に参画していくことにどのようなメリットがあるのか。そのとき地域住民にはどのような役割が期待されているのか。

ソーシャルキャピタル(社会関係資本)という考え方では、地域の中の「資本」としてネットワーク、互酬性の規範、社会的信頼がある場合、お互いの利益のために住民が協力し調整を容易にし、失業の抑制や出生率の維持などの生活面に寄与すると言われている。これらの社会的組織の特徴は市民活動の量と相関関係がある。つまり、市民活動によってソーシャルキャピタルは培養され、ソーシャルキャピタルが豊かになれば市民活動への参加が促進されるのである。

また、学習社会論では、人びとが“賢く、楽しく、健康に生きる”ことを助けるところに教育の真の価値があり、そのためにはリベラル(自由)な学びが必要であるとする。「賢く」とは、考え、工夫し、政治・行政まかせにしないこと、「楽しく」とは、自ら楽しいことを見つけ、地域の資源を見直し、活動しアピールすること、「健康に生きる」とは、体を使い、食を楽しみ、自然と親しむことである。

学校教育と地域が協働し、地域住民がよる教育活動へ参画することが市民活動であり、それを可能にするのが人びとのリベラルな生涯学習ということである。

地域活動はおとなの学びに支えられている。アンドラゴジ(andragogy:成人教育学)では、おとなは自己管理的パーソナリティをもち、多様な経験を自らの学習資源とし、生活上の課題や問題の解決のために学習に取り組む特徴を持っているいわれている。そこでは、学校教育のように指導者と学習者が上下の関係にあるではなく、個人の学びに裏付けられながら、同じ地域に暮らす者として、協働する関係が課題解決へとつながるのである。おとなにはその力がある。個人の課題と社会の課題は連動しており、その課題は発想豊かな、既存の常識にとらわれないリベラルなおとなの学びが解決するのである。

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