《公開講座記録》【外国語への招待】第1回
●2023年6月17日(土) 午後1:30
●テーマ:「多言語社会」台湾の言語状況
●講師 山本 和行(外国語学科中国語専攻 教授)
内容
公開講座「外国語への招待」第1回は、中国語専攻の山本和行が「「多言語社会」台湾の言語状況」というタイトルで講師を務めた。
全体的な構成としては、まず、「台湾に住む人々が日常生活のなかで使用している言語」にはどのようなものがあるのかというところから話を始め、それぞれの言語について簡単に説明した後、多くの言語が台湾社会において並立している状況について、台湾の民族構成と歴史背景から説明した。そのうえで、現在の台湾社会の言語をめぐる社会制度について触れたうえで、台湾の「多言語社会」の特徴に言及した。
まず、「台湾に住む人々が日常生活のなかで使用している言語」として、「國語」(中国語)、「臺語」(台湾語)、「客家語」、「原住民族語」(先住民族の諸言語)、「東南亞語」(東南アジア地域の言語)、そして「日語」(日本語)があることを説明した。これらの言語は、いわゆる「外国語」としての言語ではなく、「台湾に住む人々」の「日常生活」のなかに位置づけられている言語として分類したものである。そのことを踏まえて、まず、台湾の民族構成から、こうした言語の社会的な位置づけについて説明を加えた。台湾は、漢民族(閩南、客家、外省人)、原住民族(先住民族)、および、主に東南アジアから結婚や家事労働のために台湾に渡って生活をしている女性たちが「新住民」としてひとつのグループに分類されている人々などが生活をしている。台湾がこうした人々の共存する社会となったのは、台湾の歴史的な経緯から説明することができる。台湾は、現在の法制度上「原住民族/原住民」と呼ばれる先住民族の人々のコミュニティに、中国大陸から鄭成功が台湾に渡ったころより、漢民族移住者が多く入り込んでいった。そして、清朝統治下において継続的に漢民族の移住が進んだ後、日清戦争における日本の勝利と、日本の台湾領有によって、日本からの移住者が多く台湾に流入していた。それから、戦後になって日本による植民地統治が終わると、今度は中華民国の統治下に入り、1949年の中華人民共和国成立後は、中華民国・中国国民党の人々が多く台湾に移り住むこととなった。また、ここ30年ほどの台湾の「経済成長」のもと、東南アジアから台湾人男性との結婚のために渡ってきた「外籍配偶」と呼ばれる女性たちが増加し、彼女たちも新たな「民族」のカテゴリーに入る人々として認知されるようになっていった。
以上のような状況を踏まえ、台湾ではこうした多様な「民族」集団に属する人々が話す言語を平等に扱うための法律が作られた。2019年1月に公布施行された「国家語言発展法」がそれである。この法律では「国家語言(国家言語)」を「台湾の各固有のエスニックグループが使用する自然言語および台湾手話」(第3条)と定め、上述したような言語を公共施設や社会活動などにおいて「平等に」扱うこととしている。こうした法的な位置づけのもと、学校教育においても諸言語を地域の状況に応じて等しく教育するカリキュラムなどが整備され、いわゆる「国語」教育だけに偏らない教育活動が展開されつつある。教育上は多くの課題(人材確保、教科書、指導法など)がなお存在しているが、社会的なコンセンサスのもと、「多言語」の平等性が台湾では担保されつつあることを指摘した。
参加者からは、台湾の「多言語社会」の状況について、なぜそうした日本とは異なる形が実現できたのかといった質問をいただき、台湾社会の特性と、そうした特性を社会的・政治的に守っていくことが大きな課題となっていること、そのことが台湾の独自性や国際的な存在感を担保するうえでも非常に大事な点になっていることを説明した。