《公開講座記録》【人文学へのいざない】第6回 もう一人の私 —私は私が一番知っている? 2023.07.01 社会連携生涯学習公開講座記録

《公開講座記録》【人文学へのいざない】第6回

●2023年7月1日(土) 午後1:30
●テーマ:もう一人の私 —私は私が一番知っている?
●講師  橋本 尚子(人間関係学科臨床心理専攻 教授)

内容

昨日の私と今日の私は同じわたし?子どもの頃の私と今の私は同じ?人から見た私と、私から見た私は同じ?私の性格は遺伝なの?それとも出会った友達とかの環境の影響が大きいの?「私」をめぐる様々な問いから、自分の性格はどんななのか、自分はどんなタイプなのか、あるいは人との相性を考えてみる時のヒントとして、ユングの内向ー外向の概念や、タイプ論から話をしたいと思います。

ユングのタイプ論では、性格のタイプにより物事の見方や捉え方が違うことがわかりやすく説明されています。例えば性格の内向—外向という言葉はよく耳にすると思います。これもユングが述べています。外向型は新しい場面で能力を発揮しやすいのに対し、内向型は新しい場面は苦手、慣れた場で実力を発揮しやすい。外向型は社交的、交友関係の広さはあるものの、実務遂行など皮相的であり、月並みな場合もある。適当に行動しているが、時には少しの外的障害につまづいてもろさを露呈することもある。内向型は過度に自己批判的、自信なさそうだが、一度決めたら障害にたじろがない態度もある。自分の内的な充足のみに心がけ、それを外部に伝えることに無関心な場合もあるため、馴染んだ自分の領域以外では、とかく客体との関係がスムースにいかない面もあります。

これら二つの一般的態度について、普通はこれら両方の態度を一人の人の中に持ち合わせていますが、大体はどちらかの態度が慣習的に現れます。片方はそのかげに隠れている場合が多いです。お酒を飲んだらその人の普段は見えない以外な一面が現れるなどはその例です。明るく外向的な人がお酒のせいでしくしく泣いたり、逆に内向的な人がお酒の力ですごくおしゃべりになったり。これも、心の奥に潜んでいるもう一人の私と言えるかもしれません。これらの外向—内向のタイプは遺伝なども関係がなく、生まれつきのもので、逆のタイプを演じるとはなはだしい疲労があります。学校関係では外向型の子どもが適応しやすい面があるでしょう。外向型の子どもは、子供の時に得をすること多く、先生や大人たちの考えを感じ取って行動し、不安をあまり感じないで積極的に新しい場面に働きかけることができるからです。対して内向型は学校や集団の中で困難を感じることも多い。友人を作りにくく、先生にもなじみにくい。学校という場がそもそも外向的であることを要求する面があるため、苦労も多いことが考えられます。でも本当は先生や級友の中にも内向型の方はいるはずですし、出会いにもよるでしょう。

内向—外向、どちらもその子供の資質であるので、それを矯正、異常だから治すべきという圧力によって発達の過程が歪められることが一番問題となります。親子関係などでも、外向的な親が内向的な子どもに、外向的であることを要求するなどで子供に無理がかかる場合などは、子供の苦しみにもなります。自分とは異なる性質を持つ相手を尊重する姿勢が人間関係には欠かせません。とかく自分を基準にして考えがちですが、人には自分とは異なる性格があることの認識は大切ですね。でも、親子関係、家族関係になるとなかなかそれが難しい。ついついなぜそうなのかと相手を責めたい気持ちになりますが、自分とはそもそもタイプが違うことを理解すると、ゆっくり話し合うこともできるかもしれません。

さらにユングは、思考型、感情型、感覚型、直感型というタイプについて述べています。例えば同じ音楽を聴いて好きだと思っても、その「好き」の内容は異なるのです。例えば、思考型では、音の構成に注目し、音楽の分類や解説を好む。感情型では、「その音楽が好き」、「感じや雰囲気が好き」と自分の感情によって好き嫌いが決まる。感覚型では音楽よりも音そのものへの愛、良い音が出るヘッドホンへのこだわりがあったり、直感型では音楽の背後にある不可解な何かに心が躍るなど。それぞれ「好き」の内容が異なるのです。「好き」と言っていたので同じだと思っていたら、よく話すと全然違う。思考型の人からすると、「よくあんなに音楽の構成もわからないで好きと言えるな」と感情型の人に思うかもしれませんし、感情型の人は、「あんなに理屈ばかり言って本当に音楽が好きなのかしら」と思考型の人に対して思うかもしれません。タイプの異なる相手を理解することはとても難しいと言えます。けれども、自分と同じではなくてもいい、相手には相手の感じ方があり、それを面白がれたら、人間関係は豊かなものになりそうです。

(参考文献 河合隼雄 ユング心理学入門 岩波現代文庫)

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