
《公開講座記録》【人文学へのいざない】第2回
●2026年5月30日(土) 午後1:30
●テーマ:「不登校と思春期の子どもの心の成長」
●講師 千原 雅代 (心理学科 教授)
内容
人文学へのいざない 「不登校について考える」 心理学科 千原雅代
「不登校」が激増していることはよくご存じかと思います。人文学とは人間が構築した意味について追究する学問であり、子どもたちの心に何が起こっているのかを考えることも人文学の課題の一つです。演者は、臨床心理士・公認心理師として、不登校の子どもや保護者へのカウンセリングを数多く担当してきました。また、奈良県大和郡山市が20年以上前に立ち上げた「学びの多様化学校」の主任カウンセラーとして、教員スタッフとともに不登校支援を行っています。その経験を踏まえ、不登校とは何か、不登校支援は何を目指すのかをまず概説し、子どもたちへの支援について検討したいと思います。
そもそも不登校とは何でしょうか? 文科省の定義では、他の長期欠席理由を除いて、年間30人以上学校を休む状態を不登校と呼びます。その数は年々増加、2025年には小中合わせて35万人を超えたことは記憶に新しいところでしょう。しかし、同じ「不登校」と呼ばれても、その内実は一人一人異なります。彼らを、「問題児」、「甘えている」とレッテルを貼っても益はなく、むしろ「子どもが成長の過程で足踏みをしている」と理解することが重要です。また、子どもの体験を「共感的に理解する」ことが不可欠です。共感的理解というと、うんうんとうなづいていることとよく誤解されますが、本来は「その人の体験にそって、それがどのようなものであるか」を体験的に理解することを言います。腹にこたえてその人の気持ち、苦しさがわかることといってもよいかもしれません。しかし、他者の体験を理解することは至難の業です。理解が至らないと様々なことが生じ、時には命がけになるような事態も生じます。しかしそれを抱えていくことで、安心安全でなんでも言える関係が生まれてくることも事実です。その関係性が育まれると、おのずと子どもたちの心の仕事は進んでいきます。その子が好きな世界、いわゆる「こころの窓」を介した交流はその糸口となることが多いです。
ところで、不登校はこれまで「学校復帰」が目指されていましたが、今の目標は「社会的自立」です。これは私なりに言い換えると、子どもが「元気になる」ことです。元気になった人はおのずと自立していくからです。
また視点を変えるとこれだけの数の子どもが学校に行かないということは、子どもの側からの既存システムへの大きな問題提起であるともいえるでしょう。国は、不登校支援の目標を「学校復帰」ではなく、「社会的自立」つまり一人で食べて行けるようになること、と変更しました。また、2017年には「教育機会確保法」が制定され、フリースクール等での学習が、設置者の判断があれば学校の出席として認められることになりました。さらに、2025年以降、カリキュラムを弾力化した「まなびの多様化学校」が全国で急速に設置されつつあります。
しかし、学校を設置すればだれもが来られるわけではありません。ASUは、まずスクールカウンセラー(SC)が面接をして見立て、まず週1回1時間来て好きなことをして過ごし、元気が出てきたら授業を受けるという流れを取っています。ASUのカリキュラムで、中間・期末テストを受け、成績評価を行います。そしてその内申書でもって高校へとみな進学していきます。ASUの高校進学率はほぼ100%ですが、重要なのはどのくらいちゃんと行けて、社会的に自立したか、でしょう。2024年の追跡調査では9割の子どもが自立していましたが、東京の学びの多様化学校の社会的自立率もほぼ同様でした。外に出られる力がある子どもたちという条件付きではありますが、適切に支援すれば、子どもたちは元気になっていくことが示されていると思います。
子どもは国の宝、子どもが元気に育たない国の将来は厳しいでしょう。今後もシステム構築とその中身の人間関係の充実に向けて先生方とともに努めて参りたいと思います。