《公開講座記録》【ウェルネスライフのすすめ】第2回 臨床検査の源流 “尿検査” について 2024.11.19 社会連携生涯学習公開講座記録

《公開講座記録》【ウェルネスライフのすすめ】第2回

●2024年11月9日(土) 午後2:30
●テーマ:臨床検査の源流 “尿検査” について
●講師  山西 八郎  (臨床検査学科 教授)

内容

臨床検査とは
病気の診断や治療効果の判定のために、患者さんを対象として実施される検査を総称して臨床検査という。臨床検査は、患者さんから採取した尿、便、血液や、臓器の細胞などを検査する検体検査と、心電図検査、エコー(超音波)検査など、患者さんに直接触れて実施される生理機能検査に大別される。ただし、生理機能検査と採血行為は国家免許を有する医師、看護師および臨床検査技師のみに許されている。臨床検査において疾患や異常を見つけ出すために実施される、コストが安く、簡便かつ短時間で結果が得られ、また患者さんの負担の少ない一次的検査をスクリーニング検査といい、今回のメインテーマである尿検査は代表的なスクリーニング検査である。

臨床検査の起源
ヒポクラテス(紀元前460年頃~377年頃)の時代より、尿の色調や清濁、臭気を観察・調べる検査が実施されていた。つまり、臨床検査は尿検査を起源としている。例えば、尿が濃い黄褐色で濁っていれば肝機能の異常(黄疸)を、赤色であれば腎・泌尿器系での出血(血尿)を、また甘い匂いがすれば糖尿病を疑うなど、当時はまだ現在用いられている病名は定義されていなかったにせよ、経験的に尿の性状と疾患との関係が知られていた。たしかに古典的な方法ではあるが、しかし現在の尿検査においても尿の性状観察は、重要な検査所見として位置づけられている。

腎臓における尿の生成機序
背中側に位置する腎臓は体内の余分な水分や老廃物などを尿として体外に排泄する役目を担っている。その主人公は、一つの腎臓に約100万個存在するネフロンという微細な器官で、成人において1日に生成される原尿は約180Lにおよぶ。しかし、その99%以上は再吸収されて体内に戻されるため、1日尿量は約1.5Lとなる。

尿の化学的検査と顕微鏡による検査
現在の尿検査では、尿中のタンパク質、糖、ヘモグロビン(赤血球に含まれるタンパク)など、約10項目の成分を尿試験紙という検査試薬により検査している。検査に要する時間は2分程度である。また、尿中に存在する赤血球や白血球などの血球成分、ガン細胞を含む尿路上皮細胞、円柱というタンパクの塊を顕微鏡で観察している(尿中有形成分検査)。特にネフロンの糸球体という毛細血管での出血を示唆する赤血球円柱の検出は臨床的に重要である。現在、尿中有形成分検査では、人口知能の発達により分析装置が自動的に成分を検出し分類する自動分析法が飛躍的に進歩している。

糸球体ろ過量と慢性腎臓病
糸球体で浄化を受けた血液量を糸球体ろ過量(GFR)という。糸球体に異常があるとGFRが低下する。腎機能疾患では糸球体疾患が圧倒的に多く、その一つである慢性腎臓病(CKD)ではGFRが低下するが、その初期段階での生活習慣の改善・食事指導や投薬治療により、腎機能は正常状態には戻らないが、それ以上の腎機能低下を防ぐことが期待できる。ただし、放置すると腎移植や血液浄化療法(透析治療)が必要となる。個人的な研究成果として、尿検査成績からGFRが病的に低下している確率を算出するための計算式を構築した。一方、2021年末現在、日本国内において血液浄化療法(人口透析治療)を受けている患者数は33万人を超しており、我国の医療財政圧迫の原因となっている。透析導入原疾患としては糖尿病が原因で発症する糖尿病性腎症がもっとも多い。透析患者数を減少方向に導くためには、初期のCKD患者を積極的に見つけ出し、CKDの進行をくい止めるための生活習慣指導や投薬治療が必要となる。

まとめ
遺伝子レベルでの臨床検査が可能となった現在、尿検査は古典的な検査として軽視されることがあるが、種々の疾患に対するスクリーニング検査としては極めて重要な検査であり、特にCKDの診断においては必要不可欠な検査である。臨床検査における尿検査の立ち位置は、今後も変わらないと確信している。

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