寄贈資料の紹介(1)【天理大学百年史コラム(3)】 2020.02.19 天理大学百年史

年史編集室では、大学の歴史に関する資料提供を呼びかけています。
写真やノートやプリント類、記念品、新聞、イベント行事関連のもの、寮生活、クラブに関するものなど、その他にも学校生活や学校の様子がわかるものを全般的に集めています。
こうした呼びかけに応じて、2019年10月26日に、卒業生の中森伸一氏より学生時代の思い出の品をご提供いただきました。
寄贈していただいたのは、在学中にテキストとして授業で使用したドイツ語や英語の本を12冊、教職関係の本を5冊、LL授業で録音したオープンリールと再生機器1台です。

寄贈されたSONY製の再生機器

昭和40年代後半の天理大学の様子

中森氏は、1971(昭和46)年4月に外国語学部ドイツ学科に入学されました。
当時の天理大学はどのような様子だったのでしょうか。

当時は全国的に大学に入学する学生の増加がめざましく、本学においてもそれは例外ではありませんでした。
こうした情勢の中、学内では様々な環境改善に取り組んでおり、整備が進められていました。
前年の1970(昭和45)年には、杣之内体育館(現杣之内第2体育館)と杣之内ふるさと寮南寮新館が建設され、学生念願の喫茶室が開設しました。 

次いで翌年には、外国語学部の演習室が本館(現南棟校舎)地下一階に8室増設され、ホールの照明や床面の改修がされました。
また、学生数の増加にともない、車や単車通学する学生数も増加したため、駐車場を整備しました。現在の南棟校舎南側の駐輪場および現在の天理小学校のプールの辺りです。 
その他、同年にはまだ完成していませんが、本館(現南棟校舎)と杣之内校舎(現一号棟)の間の道の舗装整備なども必要でした。
両校舎に教室と研究室が配置されていたため、学生や教授らが頻繁にこの道を通って行き来をしていました。しかし、雨のあとはぬかるみがひどく、改善が待たれる状態でした。 

喫茶室
右側にあるのが南棟校舎。左端に一号棟がみえている。この間の道の舗装も必要だった。(1971年6月撮影)

田井庄キャンパスでは、小体育館が竣工し、計3棟の体育館を備え、体育施設を充実させました。

また、1971年から1973年にかけて、LL教室の改装と増席をおこなっています。
LLとは、ランゲージ・ラボラトリーの略称で、外国語を勉強するため、音声教材を用いて、録音や再生などをする機器を配置した教室で、1960(昭和35)年に設置されました。本学が日本で最初にLL教室を設置し、その後も画期的なシステムを導入し、教室の移転・増設などを経て強化していきました。

小体育館が建つ直前の田井庄キャンパス。写真中央あたりに小体育館が建てられた。(1971年6月撮影)

最後のオープンリール世代

寄贈していただいたオープンリールは、このLL教室でおこなわれた昭和46年度のドイツ語の授業の1年間の録音テープです。
担当教員は坂口尚史先生で、坂口先生は中森氏の入学と同年に天理大学に着任されました。

中森氏は、授業で録音したオープンリールを持ち帰り、家で復習するため、SONYの再生機器も購入されました。今回、この機器も一緒に寄贈していただきました。
もちろん、当時は高価なもので、学生が容易に買えるものではありませんでした。中森氏は自宅通学だったので、金銭的なやりくりをして機器を買うことができ、また授業のたびに毎回新しいテープを買うこともできましたが、下宿生などは、新しいテープを買うことができず、1本のテープに上書き保存して使い回している状態だったといいます。

ちなみに、当時の本学の通学生の割合をみると、自宅通学生は49%で、自宅外(寮・下宿・詰所)通学生は51%の割合になっており、やや自宅外通学生が多いものの、ほぼ半数の割合です。そして「近年学生数の増加と詰所通学生の減少に反比例して、下宿希望者が急増」している傾向でした。(「天理大学広報」No.13)

生活費をみると、自宅通学生の平均的生活費が4千円から8千円で、交通費、学習費や小遣いなどに消費されることに対し、自宅外通学生の平均生活費は2万円から2万5千円で、そのほとんどが衣食住に消費される割合が多いとあります。つまり、約半数の学生が学習費にお金を費やす余裕があまりなかったといえます。

中森氏は、復習の為もありましたが、何かの記念になるかも、という思いもあって、1年間分の授業の録音テープを上書きせずに保存し、今まで大切に保管されていました。そして、中森氏が卒業後、カセットテープが普及し始め、1976(昭和51)年からLL授業の録音も順次カセットテープへと移行していきました。
そのため、中森氏は、オープンリールに録音していた最後の世代ということになります。

LL教室での授業
録音したオープンリールとテキストプリント

当時のテキスト

寄贈していただいた本は、いちばん古いもので1958(昭和33)年に刊行されたドイツ語関連の本で、その他はほとんどが中森氏が大学に入学した頃に発刊もしくは改訂されたものです。
当時のテキストとして、どのような本が用いられていたのかがわかります。

昭和46年度の授業科目一覧によると、ドイツ学科の1年次の必修科目はドイツ語1(A)~(C)の3科目です。寄贈された『NEUARTIGES DEUTSCHE LESEBUCH』(藤田五郎 郁文堂 1966)は、三好成美先生のドイツ語1(C)の授業のテキストであることがわかります。

どの本も、中をみるとアンダーラインやメモなどの書き込みがたくさんあり、中森氏が熱心に勉学に励んでおられた様子を思い浮かべることができます。

寄贈された本

※掲載の写真は加工をしています。写真はすべて年史編集室収蔵品です

参考資料
・『天理大学五十年誌』天理大学五十年誌編纂委員会編 1975
・「天理大学広報」No.3 1970年9月
・「天理大学広報」No.7 1971年5月  
・「天理大学広報」No.12 1971年12月
・「天理大学広報」No.13 1972年1月


(年史編纂室 吉村綾子)

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