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 【リレーエッセイ 感染症と人類15】

感染症とともに生きるアフリカ

森 洋明 教授(国際学部地域文化学科ヨーロッパ・アフリカ研究コース:フランス語教授法、コンゴ地域研究)

アフリカの赤道直下にあるコンゴ共和国では、日常の生活のなかで「パリュ」という表現がよく聞かれます。パリュとは「パリュディスム(paludisme)」の略称で、公用語であるフランス語でマラリアのことです。日常的によく聞くということは、この病気はコンゴ人の生活の一部であるとも言えるでしょう。実際、「コンゴではマラリアは風邪みたいなもの」と現地の人から聞いたことがあります。

マラリアの原因はマラリア原虫で、それを媒介するのがハマダラ蚊です。ハマダラ蚊とは総称で、世界には約460種いてそのうちの約100種がマラリアを媒介するそうです。その多くはコンゴのような熱帯地域に生息します。

マラリアは38度後半から40度前後の発熱とともに、悪寒や頭痛、筋肉痛、関節痛、下痢、嘔吐などの症状を引き起こします。重症になれば、意識障害や多臓器不全にもなり死に至る病気です。実際、アフリカで最も多くの命を奪っているのがこのマラリアなのです。世界保健機関(WHO)によると、2018 年には世界で推定 2 億 2800 万件のマラリアの発症数があり、約 40 万 5000 人が死亡し、その 94%がアフリカ地域ということです。なお、症状を軽減したり発症を抑えたりする予防薬はあってもワクチンはありません。

マラリアだけでなく、アフリカにはエボラ出血熱やデング熱、チクングニア熱などといった熱帯の感染症が非常に多いところです。その最大の原因は、アフリカの自然環境だと言われています。たとえば、マラリアなどを媒介し「世界で最も人を殺している」と言われる蚊の生息に適しています。また、菌類も含めた地上の生物種の多くが熱帯地域に分布しています。言い換えるなら、多くの国が熱帯地域に位置するアフリカでは病原体と接触する機会が多くなるのです。

こうしたところへ、昨年からのコロナウィルスです。アフリカでの爆発的な感染が懸念されました。とくにWHOはアフリカの医療体制の慢性的な脆弱さを指摘し、警鐘をならしていました。あれから1年、実際アフリカのコロナ状況はどのようになっているのでしょうか?

アフリカと言っても54ヵ国あるので、国によって状況は大きく異なります。同じ国でも都市と地方によって大きな違いもあります。それでもアフリカ全体でとらえると、懸念されていたほどの爆発的感染には今のところ至っていないといえます。その理由はさまざまでしょう。アフリカには人口密度の低い国が多いことや欧米各国と比較して若者の人口が多いことなどが考えられます。マスクの着用やソーシャルディスタンスだけでなく、学校や市場の閉鎖、夜間の外出禁止など厳しい規制も功を奏しているでしょう。あるいは「貧困で不安定」というお決まりのアフリカに対するステレオタイプが、危機的状況を予想させたという指摘もあります。

昨今は、中国やロシア、インドから無償でワクチンが送られている国が多く、感染は収まっていくと思われます。ただ、ワクチンの摂取に当たっては、ある問題に直面しました。それは、この「非常事態」に対してあまり危機感を持っておらず、ワクチンの必要性を感じない人も少なくないということです。これはコロナの広がりが懸念された昨年から指摘されていたことでもあります。アフリカでは今回の「コロナ禍」のずっと以前から、マラリアとともに生きてきた、つまり常態的な「マラリア禍」であったことと決して無関係ではないでしょう。そういえば80年代、私がコンゴにいた頃、HIV/エイズがアフリカで蔓延していると世界的に話題になったときも、知人のコンゴ人は「風邪みたいなもの」と言っていたことが思い出されます。もしかしたらその表現は、さまざまな感染症のなかで生きる人たちの、少しでも楽観的でいようとする「心の声」なのかもしれません。

参考文献
船田クラーセンさやか編『アフリカ学入門 ポップカルチャーから政治経済まで』(明石書店、2013年、第7章:「アフリカにおける保健・環境衛生論─マラリアとの戦いを中心として」)。
松田素二編『アフリカ社会を学ぶ人のために』(世界思想社、2014年、第4部4:「感染症」)。
峯陽一・武内進一・笹岡雄一(編)『アフリカから学ぶ』(有斐閣、2010年、第12章:「エイズとともに生きる人びと─アフリカ的連帯」)。
制限遵守を訴える首相(上)  外出制限にもかかわらず通りに人が溢れている様子(左下)
制限遵守を訴える首相(上)  外出制限にもかかわらず通りに人が溢れている様子(左下)

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