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 【生涯学習】

《公開講座記録》【大和学への招待】阿礼と安万侶—古事記編纂者の近代—

第2回 ● 平成27年10月3日(土) 午後1:30
テーマ ● 阿礼と安万侶—古事記編纂者の近代—
講 師 ● 黒岩康博 歴史文化学科講師

内容

 古事記の序において、その編纂に携わったと記される2人の人物がいる。稗田阿礼と太安万侶である。彼らは特に近世後半から昭和前期にかけて顕彰されることになるが、子細に見ると、その過程は3段階に分けることができる。後述するが、特に20世紀に入ってからは、顕彰のメカニズムにおける国と奈良県との関係が重要であった。

具体的に顕彰過程を検討する前に、まず史料上の阿礼と安万侶の様子を見てみると、彼らが天武・元明天皇の命により古事記編纂にあたったということは、前述した古事記上巻の序にしか記されておらず、古事記が成立した712年をカバーするはずの続日本紀にも、その記事は見当たらない。しかし、そのような史料上での制約にもかかわらず、安万侶を祭神とする多神社・小杜神社の存在は、18世紀の地誌である「大和志」や『大和名所図会』などでうかがうことができ、また幕末維新期に成立した菊池容斎の人物画伝「前賢故実」では、古事記編纂の功績・没年とともに安麻侶の姿が描かれるなど、その図像化も見られた。

(第1段階) そうした古事記編纂者、特に安万侶を神・偉人と捉える心性は、国学の勃興と相まって、明治期には古事記本文(テクスト)の研究隆盛へとつながり、チェンバレンの『英訳古事記』(明治15年)も生んだ。明治32年には、高山樗牛・高木敏雄・姉崎正治の間でスサノヲの性格をめぐる論争が起こるなど、哲学・神話学・宗教学といった様々な学問の観点を取り入れた研究が見られた。ところが40年代に入ると、そのような学問上の自由とは別に、新たな神格化の動きが登場する。
明治44年2月、古事記の撰上1200年を記念して多神社で祭典が挙行され、翌3月には安万侶が撰上の功績により従三位の位階を贈られたのである。同じ3月には、皇典講究所ほか計5団体の発起による古事記撰上千二百年記念会が靖国神社能楽堂で行われ、阿礼・安万侶の功績が盛大に讃えられた。

(第2段階) 同記念会では安万侶像・多神社全景の絵葉書も配布されたようで、東京での盛り上がりを受け、どちらかと言えば安万侶にウェイトを置いた顕彰が地方においても進みそうであったが、その流れに歯止めを掛けたのは、小杜神社の祭神を安万侶とは認めなかった内務省神社局であった(大正元年)。大正期に編纂された『奈良県磯城郡誌』や『奈良県風俗誌』では、小杜神社・売田神社の祭神はそれぞれ安万侶・阿礼と記されていたが、斎藤美澄・大宮兵馬ら在地の研究者はそれらをいぶかしむ著書(『大和志料』)や報告書(『奈良県史蹟勝地調査会報告書』第3回)を残しており、地元も知識上一枚岩という訳ではなかった。

(第3段階) このように、大正期の奈良県は、全国的に盛り上がろうとする顕彰の流れを自家薬籠中の物とはできなかったが、童話普及運動という全く異なる方面から、阿礼・安万侶と奈良県との結び付きは強固になった。大正15年に設立された奈良県童話連盟は、昭和2年に機関誌『童心』を創刊すると、翌3年より、日本のアンデルセンを探そうという児童文学者久留島武彦の提案に乗るかたちで、にわかに「話の太祖」として阿礼の顕彰を始める。同5年には現在まで続く阿礼祭の第1回が売田神社で開催され、巌谷小波揮毫の記念碑も建てられるなどとんとん拍子に話は進み、同7年には日比谷公会堂でも阿礼祭が催され、阿礼小唄・阿礼踊りが披露されている。

今まで安万侶の陰に隠れ気味であった阿礼が、「お話の神様」として前面に出ることにより、戦時期には両人揃って古事記「纂録功臣」という、楠木正成・新田義貞と同じ「功臣」というカテゴリーで顕彰されることとなる。昭和16年奈良県知事の発議により古事記纂録功臣顕彰会が設立されると、日本文学報国会と共催で古事記まつり(同17年)・古事記展覧会(18年)が東京で催されるという、明治末と同じような顕彰経路をたどった。そして同18年、比定に関する様々な疑義があるにもかかわらず、売田神社の社号が延喜式の記載に合わせて売太神社と変更され、同19年には阿礼・安万侶を祭神とする売太・小杜神社は村社から県社へと昇格し、本殿の遷座祭を行った。古事記編纂者阿礼・安万侶顕彰の完成である。

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