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 【リレーエッセイ 感染症と人類12】

インドの火葬:心身の浄化と死者のゆくえ

堀内みどり 教授(おやさと研究所:宗教学、天理教学、宗教と女性)

今年に入りインドがコロナウイルスの壊滅的な第2波に取り組んでいるとき、何百万人もの信者がハリドワールの北部の都市のガンジス川のほとりで沐浴しました。3月11日から始まった「クンブメーラー」という世界でも最大級のヒンドゥー教の祭りでのことです。約1カ月半続く祭りには何百万もの人々が連日押し寄せ、ガンジス河岸はまさに「密」状態です。これが現在の爆発的コロナ感染の一因ともなっているという見方があります。そして、「インドのコロナ流行『悲痛の域超える』 WHO事務局長が警鐘」「『もう空きがない』駐車場が火葬場に…感染爆発のインド」……4月末、悲惨なインドの状況が報道されました。病院に入ることもできず、医療用の酸素を求めて薬局にできた人々の列。死者を焼く薪の山が埋め尽くし、立ち上る火葬の炎の駐車場。さらに、BBCは、「5月10日(現地時間)、インド北部のビハール州とウッタルプラデシュ州の州境の川岸に何十体もの腐敗した遺体が漂着した」と報じました。火葬をする場所がなかったのか、火葬をするのに十分な薪がなかったのか、灰になることなく、多くの遺体が川へ流されたのでしょう。

ヒンドゥー教では、川は聖なるものであり、沐浴することで、罪が清められ、救いがもたらされると信じられています。観光地としても有名な「ベナレス」は、シヴァの都であり、流れるガンジス河岸の沐浴場(ガート)では、在住者だけでなく多くの巡礼者が沐浴します。そうしたガートの一つ「マニカルニカ・ガート」は火葬場(死者のための沐浴場ともいえるでしょう)で、何千年もの間、火葬の火が灯されて続けています(写真1)。ここに運び込まれた遺体は、ガンジスの水で浄められ、井桁に組まれた火葬壇に横たえられ、そして焼かれ、遺灰や燃え残った遺体はガンジス川へと送られます(写真2はネパール・パシュパティナートの火葬場で、手前はガンジス川支流のバグマティ川)。

こうした葬送儀礼は、人が行う最後の通過儀礼(サンスカーラ)であり、R. Pandey(宗教社会学者)によれば、「宗教的儀式あるいは行為、内面的・霊的な恩恵の外界における目に見える標」であるとされ、『リグ・ヴェーダ』(古代インドの聖典)(5.76.2)では、「浄化された」という意味で使われたと述べています。そして、そうした儀礼・儀式で重要な役割を担っているのが「アグニ」(火神)です。アグニもまた強い浄化力を持つと信じられ、あらゆる儀礼に先立ち儀礼の行われる場所を浄め、神の招来に備えます。火葬に際しては、肉体から離れた「魂」を天に運ぶ役割をも担うとされます。(一般にヒンドゥー教では墓がなく、また赤ちゃんなどは火葬されません。)

『リグ・ヴェーダ』は、アグニを「神なる祭祀の執行者」(辻、1.1.1)、「神々に供物を運ぶ[神]よ、」「祭儀をよく執行し、鋭くして・清き炎持つ[神]に、供物を捧げよ。」(辻、3.9.6)と讃えています。辻直四郎は、「とくに祭火として人間と密接な関係をもち、神界の祭官、家庭の賓客として尊ばれ、その浄化力が重んぜられた。」「リグ・ヴェーダ時代においても火葬を原則とし、遺骨を壺に納めて土中に埋めた。死者が天界に達することを願うと同時に、死の跡を拭い浄めることに腐心し、親族は一定の期間、身心を清浄に保ち、死が生存者に及ばないように祈った。」と解説しています。『リグ・ヴェーダ』は、「アグニ(火神)よ、彼(死者)を焼き尽くすなかれ、過熱するなかれ、彼の皮膚を焦がすなかれ、[彼の]肉体を。汝が[彼を]調理し終りタルト機、その時彼を祖先の元に送れ、ジャータ・ヴェーダス(アグニの呼称)よ。」(10.16.1)と詠い、アグニに死者を祖先の元へ送るようにと呼びかけます。

現在、インドで起こっている光景はとても異様に見えるかもしれませんが、何千年も続いてきたヒンドゥー教の信仰に根差したものであるということを理解することも必要でしょう。

参考文献
立川武蔵・石黒淳・菱田邦男・島岩『ヒンドゥーの神々』(せいか書房、1980)。
辻直四郎訳『リグ・ヴェーダ讃歌』(岩波文庫、1978)。
橋本泰元・宮本久義・山下博司『ヒンドゥー教の事典』(東京堂出版、2005)。
前田專學『インド哲学への誘い』(NHK出版、2000)。
Rajbali Pandey, Hindu Saṃskāra: Socio-Religious Study of the Hindu Sacraments,. (Motila Banarsidass Publishers, 1969)

写真1 1970年頃のマニカルニカ・ガート
写真1 1970年頃のマニカルニカ・ガート
写真2 世界遺産パシュパティナート(ネパール)の火葬場
写真2 世界遺産パシュパティナート(ネパール)の火葬場

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