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 【リレーエッセイ 感染症と人類16】

感染症と二人の考古学者

桑原久男 教授(文学部歴史文化学科考古学・民俗学研究コース:考古学)

奈良県田原本町の唐古・鍵遺跡は、弥生時代を代表する集落遺跡として知られています。平成30年(2018年)、史跡公園がオープンし、整備された遺跡が市民の憩いの場となっていますが、かつては、唐古池とその周囲に広がる水田で土器片や石器などの遺物を採集することができました。今から約100年前、大正年間に、森本六爾や梅原末治などの考古学者が相次いで遺跡を訪れ、学界に遺物の報告を行ったことで、遺跡の名前が有名になりました。

明治36年(1903年)、奈良県で生まれた森本六爾は、その頃、中学校の代用教員をしながら考古学の研究を進めていました。大正13年(1924年)、森本は職を辞して上京し、有志やミツギ夫人とともに考古学の研究に邁進してゆきます。唐古池で採集した土器片に稲籾の圧痕を見いだしていた森本は、弥生時代が稲作農耕文化の時代であるという学説を全力で唱えたのです。しかし、その生涯は長いものではありませんでした。

昭和6年(1931年)~昭和7年(1932年)、ミツギ夫人を残して、パリに留学した森本が、一年足らずの滞在みやげとして持ち帰ったのは、当時は不治の病とされていた肺結核だったのです。病はミツギ夫人にも感染してしまいます。森本の出身地、桜井市大泉に建てられた夫妻の顕彰碑には、次のように記されています。

「(森本六爾氏は)同地に生まれ、独学にて考古学の研究に没頭し、若年にして前人未踏の「日本原始農業」を著し、天下にその説を問う。しかるに、研究の緒につきしのみにて昭和11年1月22日逝く。享年32歳。
ミツギ夫人は福岡県の生まれ、昭和3年結婚。内助のほまれ極めて高かりしも、夫君に先だち、同10年11月永眠。享年32歳。
共に若くして考古学に殉ず。まことに惜しみてもなお余りあり。ゆかりの地、唐古池の発掘調査は昭和11年12月に始まり、君の予見適中したるも相共にその成果を見ることなし。嗚呼、二粒の籾もし成長し結実しあらば。」

一方、明治26年(1893年)に大阪で生まれた梅原末治は、森本より10歳年長で気鋭の研究者でした。梅原は、旧制中学を卒業後、京都帝国大学文学部に新設された考古学講座で、内藤湖南、富岡謙蔵、浜田耕作といった学者たちの研究をサポートし、国内外の遺跡や遺物の調査を精力的に進めました。その実績を買われた梅原は、大正14年(1925年)から約3年、浜田らの庇護を得て欧米に留学し、その仕事ぶりが現地で有名になりました。
 
梅原は、帰国後の昭和4年(1929年)、東方文化学院の研究員に採用され、昭和8年(1933年)には文学部助教授、昭和14年(1939年)には浜田の後任として教授に昇進します。故金関恕先生(天理大学名誉教授)が京都大学に入学した昭和24年(1949年)当時、梅原教授は病気のために休職中でした。金関先生によれば、梅原教授の病気は若いときの肺結核の再発でしたが、東洋美術史家のウォーナー博士によって、米国から届けられた使われはじめのストレプトマイシンが功を奏して全治しました。この話は当時の新聞に「学者の友情」として書き立てられて有名になったといいます。
 
梅原教授は、昭和31年(1956年)、京都大学を退官後、天理大学おやさと研究所の研究員に着任し、昭和38年(1963年)まで、天理参考館の資料整理などに携わりました。その仕事の手伝いを命じられ、昭和34年(1959年)、天理大学に着任した金関先生は、平成4年(1992年)の大学改革に際して歴史文化学科の開設に尽力され、平成9年(1997年)に退職されるまで、38年の長きにわたって教鞭を執られました。
 
1943年、ワックスマンらが放射菌から特効薬のストレプトマイシンを発見したことで、人類の平均寿命が約10年伸びたと言われています。もし、その発見がもう少し早かったなら、また、逆に遅かったなら、日本考古学の歩み、あるいは天理大学の歴史は違ったものになっていたかもしれません。

参考文献
梅原末治『考古学60年』平凡社、1973年。
金関恕『考古学は謎解きだ』東京新聞出版局、1999年。
藤森栄一『二粒の籾』河出書房、1967年。


写真1 唐古池を北側から望む
写真1 唐古池を北側から望む
写真2 森本六爾夫妻顕彰碑
写真2 森本六爾夫妻顕彰碑

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