天理大学客員教授の中江有理氏が特別講演、本学教員と対談を行いました。 2025.11.28 人文学部国文学国語学科受験生の方へ受験生の保護者・高校教職員の方へ附属天理図書館6つのCONNECT

11月12日、天理大学付属天理図書館2階講堂にて、天理大学客員教授である中江有里(女優/作家/歌手)氏が「文学を語らう狭間に―北條民雄から阪神タイガースまで―」と題した特別講演を行いました。今年度は中村晋吾国文学国語学科准教授との対談を中心とする内容でした。

冒頭、中村准教授による中江氏の紹介の後、中江氏は講演タイトルにもある小説家・北條民雄を本人の卒業論文でとりあげたきっかけについて語りました。
大学を卒業した時に「大学に行って何が良かったか」と尋ねられれば、「卒業論文を書いたことだ」と胸を張って答えられると述べ、次のように学生へメッセージを送りました。
「卒業論文とは、自分だけの新しい視点を見つけ、その問いに真摯に向き合い、答えを導いていく作業です。先人が取り上げてこなかったテーマに挑み、1年以上かけて一人の作家を調べ、その成果をまとめ上げる経験は非常に貴重であり、人生にも通じる学びがあります。ぜひ挑戦してください」

対談では北條民雄の『いのちの初夜』を取り上げ、ハンセン病患者が社会的に差別を受けていた当時の状況が、コロナ禍における社会の様子を重ね合わせる中江氏の考えが紹介されました。

中村准教授は中江氏のこの考えに共感し、北條民雄の日記から「人間は、なんにも出来ない状態に置かれてさえも、ただ生きているという事実だけで貴いものだ」という言葉を引用しました。

また、阪神タイガースの話題では、中江氏が入院中に試合結果に励まされた経験を語り、退院後に再び球場で観戦できた喜びが応援のきっかけになったことを明かしました。話題は野球全般へと広がっていきました。

さらに、中村准教授が中江氏の小説の特徴について尋ねる場面もあり、中江氏は自身の作品の経緯や創作の背景を、自作を例に挙げながら答えました。

対談の終盤、中村准教授は「現代の人々はSNSなどの断片化された情報を受け取り、一つの目線で物事を解釈し、それで満足しているように感じる」と述べました。これについて中江氏は、「他人の発言を鵜呑みにせず、わからないことを恥ずかしいと思わないでほしい。自分に正直でいようとする姿勢があれば、いつか必ず何らかの答えにたどり着けるはず」と自身の思いを語りました。

講演・対談の質疑応答では、参加した学生からの質問に対し、中江氏は真剣に耳を傾け、一つひとつ丁寧に答えました。

中江有里氏略歴

女優・作家・歌手。1973年大阪府生まれ。法政大学卒。
89年芸能界デビュー。NHK朝の連続テレビ小説『走らんか!』ヒロイン、映画『学校』などに出演。NHK BS2『週刊ブックレビュー』で長年司会を務めた。著書に『水の月』(潮出版社)、『愛するということは』(新潮社)、『万葉と沙羅』(文藝春秋)などがある。
読書好きで知られ、本にまつわる講演やエッセー、書評を多く手がける。
歌手としては、アルバム『La Chaleur-ラ・シャルール-』などをリリース。また松本俊明氏とのユニット「スピン」を結成、2025年7月に『それぞれの地図』を配信リリース。
2025年秋、主演映画『道草キッチン』公開。
文化庁文化審議会委員。

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