近代文学特論1の紹介、後編です。
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今回の授業では、水俣病について勉強した上で、近代文学全体の最高峰の一つであると言ってもいい『苦海浄土 わが水俣病』から「死旗」の章を読みました。水俣の人々が、自分たちの誇りでありアイデンティティでもある魚を食すことで病に冒されていくさま、またこの病を隠蔽し、矮小化しようとする側が引き受けるべき恥辱を、患者の側が受け取っていく不条理な構図を読み取ります。

水俣病やこの作品については知ってはいたものの、その内実についてはあまり知らなかった学生たちからは「生々しい会話文に引き込まれた」「患者の声そのものが聞こえてくるようで、感じるものが大きかった」などの感想をもらい、読んだ意義を感じました。

「いのちの初夜」も『苦海浄土 わが水俣病』も、かなり重い「病」のテーマや社会問題を背景にした作品であるものの、人間のユーモラスな部分や哀愁が描き込まれている点で、決してとっつきにくい作品ではありません。授業で取り上げる他の作品も、ほとんどの学生たちが初めて手に取る作品ですが、作品に触れ、読むという行為を通じて、単なる知識に留まらない、「自分」の軸となる“知性”を身につけてほしいと考えます。
(人文学部国文学国語学科 中村晋吾)