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 【リレーエッセイ 感染症と人類19】

社会的包摂を重視した台湾の新型コロナウイルス感染症対策

今井 淳雄 准教授(国際学部外国語学科中国語専攻:市民社会論(中国・台湾地域研究)、NPO/NGO論)

台湾は2021年5月上旬まで、諸外国が国内の新型コロナウイルスの感染拡大で苦しむなか、その封じ込めに成功し、新型コロナウイルス感染症対策の「優等生」といわれました。このような奇跡とも呼べる状況は、日本のメディアや研究者にも注目され、その成功要因を分析する記事や論考が数多く紹介されました。

民主主義国である日本において、人の移動を制限することは容易ではありませんが、一度もロックダウンすることなく、封じ込めに成功した台湾の事例は、多くの日本人にとって「お手本」のように映ったことでしょう。しかし、感染症とは残酷です。2021年5月中旬に入ると、再び感染者数が増加し始め、「REUTERS COVID-19 TRACKER」をみると、一時期1日の新規感染者数が600人を超えるまでに拡大していることがわかります。その後、新規感染者数は徐々に減少し、再びその封じ込めに成功しつつあります。

まだまだ台湾の感染症対策の成否を判断できる段階ではありませんが、少なくとも台湾が自由や民主主義などの普遍的価値を前提として、アナログとデジタル技術を駆使した各種防疫政策をいち早く展開したことは特筆に値するでしょう。特に流行初期の唐鳳(オードリー・タン)行政院政務委員(デジタル政策担当:無任所大臣に相当)が中心となって展開した一連のマスク供給をめぐる対応は、世界から注目を集めました。その内容は、唐氏の著書『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』で詳しく紹介されていますが、要約すると以下のようになります。

台湾政府は当初、コンビニや薬局で3枚までマスクが購入できる措置を講じましたが、全体的な在庫管理が行われていなかったため、1人が複数の店舗でマスクを購入するという事態が発生しました。そこで、健康保険証、クレジットカード、悠遊カード(日本のSuicaに相当)を利用する実名販売に切り替えます。しかし、この方法ではキャッシュレス決済に不慣れな高齢者にマスクが行き渡らないことが判明したため、健康保険証を使って薬局で直接購入できるようにしました。また、実名販売を開始した当初、コンビニ各店舗での在庫状況がわからず、市民の間で混乱が生じました。その際、唐氏はある市民が地図アプリを使ってマスクの在庫情報を発信していることを知り、この作成を市民プログラマーらに提案しました。行政はマスクの流通・在庫データを一般に公開し、市民プログラマーは、そのデータを使って各店舗のマスクの在庫状況がわかるアプリを開発するという市民社会と協働する形が採られました。このように台湾政府は、アナログとデジタル技術を織り交ぜ、市民社会と協働することで、市民にマスクを行き渡らせることに成功したのです。

今回の新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大は、あらゆる場面で既存の価値観を転換させています。例えば、教育の現場でいえば、ビデオ会議システムを用いた授業はこの1年であたりまえのことになりました。今ではPCもしくはスマートフォンと通信環境さえあれば、世界中どこからでも授業を受けることができます。オンライン留学も一般的になりつつあるといってよいでしょう。

しかし、その一方で、このような「時代の波」にうまく乗ることができなかった(もしくは選択的に乗らなかった)人に対する社会的排除の問題もあらゆる場面で顕在化しています。唐氏が中心となって展開した一連のマスク供給をめぐる対応は、そのような新たな問題に対するひとつの解といえるでしょう。この点について唐氏は、『プレジデント』第58巻第20号へのインタビューで、情報格差に端を発する社会的排除を批判し、社会的包摂の必要性について言及しています。あらためて一人ひとりの「思いやり」という普遍的な価値が問われる時代にきているのです。

【参考文献】
オードリー・タン『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』プレジデント社、2020年。
オードリー・タン「緊急独占インタビュー IQ180・台湾IT担当大臣 オードリー・タン 親愛なる日本のみなさんに、国家総デジタル化のヒントをお教えしましょう」『プレジデント』第58巻第20号、プレジデント社、2020年、12-15頁。
日本からの新型コロナワクチン提供に対する台湾人有志一同によるお礼を掲載した全面広告(『産経新聞』朝刊、2021年6月13日、10面・12面)
日本からの新型コロナワクチン提供に対する台湾人有志一同によるお礼を掲載した全面広告(『産経新聞』朝刊、2021年6月13日、10面・12面)

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