《公開講座記録》【多文化理解へのいざない】第2回 ”おでん”と”SURIMI”ーすり身食品からみる世界と日本ー 2025.12.24 国際文化学科社会連携生涯学習公開講座記録 # 公開講座

《公開講座記録》【多文化理解へのいざない】第2回

●2025年12月7日(日) 午後1:30
●テーマ:"おでん"と"SURIMI"
 《公開講座記録》【多文化理解へのいざない】第2回 "おでん"と"SURIMI"ーすり身食品からみる世界と日本ー
●講師  藤田 明良  (国際文化学科 教授)

内容

 

 おでんは日本を代表する庶民的食文化であるが、アジア各地にも同じ「オデン」やおでん的な食品が存在する。韓国で昼頃から町中に並ぶ屋台には、キンパッやトッポギなどと共に、熱々のスープ鍋に薄いねり物を波形に刺した串が浸っている。注文した客は串をかじりながら紙コップに入ったスープを飲んで暖をとるのだが、この串を韓国では「オデン」、または「オムクッ(魚すり身)」と呼ぶ。台湾でも、だし汁で煮込んだ魚介の練り物、厚揚げ、卵などを味噌だれで食べる屋台料理があり、南部では「黒輪(オーレン)」、北部では「甜不辣(テンプラ)」と呼ばれている。たれは甘めと辛めの二種があり、好みのモノを選んで付ける。韓国や台湾に日本語と同じ「オデン(オーレン)」や「テンプラ」という呼称があるは、植民地であった名残りである。第二次世界大戦後は、政府によって日本語使用は抑制されたが、庶民食の世界では生き延びていたのである。

 東南アジアのマレーシアにも、魚介や豆腐のすり練り物串をスープで温める「ロ(LokLok)」がある。練り物だけでなくオクラやピーマンなどの串もあってカラフルだ。信仰に関係なく老若男女が屋台で食べたり、テイクアウトしたり、楽しんでいる。アジアの金融センターであるシンガポールにもオデン的な食べ物「ヨントウフ(醸豆腐)」がある。魚の練り物を挟み込んだ堅豆腐を中心にすり身団子、厚揚げ、湯葉揚げなど好きな食材を選んで煮込んでもらう料理で、麺と一緒に食べるのが一般的だ。ゴーヤやオクラに練り物を挟んだり、空芯菜やワカメを入れたり、こちらも彩りが豊かだ。

 アジアの「オデン」文化には、各地域の個性もあれば共通する特徴もある。「おでん始めました」という貼り紙に象徴されるように、日本や韓国では寒い季節に好まれるが、東南アジアのマレーシアやシンガポールでは年中ある人気の食べ物だ。また、東アジアの日本・台湾・韓国では茶色系の具材が主役だが、マレーシアやシンガポールでは緑色や赤色の野菜も並ぶカラフルな料理だ。逆に日本とここで紹介した四地域の共通性としては、具材に必ず魚介系のすり身揚げがあることだ。オデン的料理が見当たらないベトナムやタイにも、魚のすり身揚げ「チャー・カー」や「トートマン・プラー」がある。魚のすり身揚げは、アジアに共通する伝統食文化なのである。

 もう一つの共通性は、庶民の屋台食だった点である。どの国でもレストランや宴会ではなく、路上の屋台やフードコートの一角で食べたり、持ち帰ったりする食べ物であった。このようにアジア各地ではぐくまれてきた庶民の食文化「オデン」ですが、日本だけの際立った特徴がある。それは、「お酒の友」ということだ。今回紹介した国々で「オデン」を提供する店で、お酒を置いているのは日本だけなのだ。日本と似た飲酒文化がある韓国でも「オデン」のある屋台にはアルコール類はなく、いわゆる「おやつ屋台」なのである。

  欧米やアジア各地のスーパーに行くと大きな棚全体を占める「SURIMI」売り場に出くわすし、料理番組やコマーシャルにも「SURIMI」が頻繁に登場する。サラダ、前菜やオードブル、パスタやサンドイッチ、グラタンやキャセルール、実に多様な料理に使われるポピュラーな「SURIMI」実はこの「SURIMI」は、ねり物全般ではなくほぼ100%カニカマなのである。日本の食品メーカーが開発し、1972年に売り出されたカニカマは、安さと手軽さからたちまち人気食材となった。1977年に米国への輸出が開始、大手航空会社のファーストクラス機内食に採用され、海の向こうでも受け入れられた。1980年代以降、ヘルシーブーム、ダイエット志向、狂牛病による牛肉離れなどを追い風にヨーロッパやアジアにもカニカマ旋風が及んでいく。近年の世界SURIMI消費量は1位フランスとアメリカ、2位日本、3位スペイン、生産量は1位アメリカ、2位リトアニア、3位日本となっている。トップ企業は年間生産量8万トン売上高440億円のビチュナイグループ(リトアニア)だ。製造機械のナンバーワンは日本のヤナギヤ(山口県)で、世界の生産ラインの70%を占めている。

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