数年前、我が家の台所にコバエが湧いた。日ごと状況は悪化し、ドラッグストアに駆け込んで、置型の駆除剤を購入した。それは赤とオレンジ色の小さな壺型をしており、本当に効くのかと、疑いと祈りを込めて台所に設置した。二日後には、驚く効果が現れた。
改めて手に取った外箱には、コバエが好む色と香り、止まり木効果や潜り込む習性を活かした容器と殺虫剤の形状など、コバエ研究に基づく工夫が紹介されていた。また、『コバエの習性を知りつくしたからこそ、コバエを根こそぎキャッチします』と、情熱や自信が込められていることが伝わってきた。開発者たちのコバエに対する探究心を感じて、うらやましい気持ちになった。
当時の私には、コバエ以外にも頭を悩ませていることがあった。それは研究テーマを見つけられずいたことだ。苦しくてたまらなかった。この商品が世に出るまでにも、多くの試行錯誤があったはずだが、その過程も楽しんでいる様子が想像できた。研究テーマとは、まず自己の日常に興味を持ち、そこから湧きあがってくるものかもしれない、そんな思いが、この経験から芽生えた。
私の経験は、学生にも共通しているのではないかと思う。在学中に研究テーマに向き合うとき、つい広い外の世界ばかりに目が向いていないだろうか。ひと息ついて、身のまわりを観察したとき、心から関心をもてるテーマが、コバエのように突然湧いてくるかもしれない。
執筆者(医療学部・看護学科 前川理恵子・助教)