《公開講座記録》【ウェルネスライフのすすめ】第1回 遺伝と環境 2024.11.22 社会連携生涯学習公開講座記録

《公開講座記録》【ウェルネスライフのすすめ】第1回

●2024年11月2日(土) 午後2:30
●テーマ:遺伝と環境
●講師  乾 富士男  (看護学科 教授)

内容

ウェルネスという言葉はあまり聞きなれませんが、おおよその意味はより健康にというような積極的に健康を目指す姿勢のことのようです。よく似た言葉にウェルビーイングというものあります。このウェルビーイングも近年再注目されています。政府の骨太の方針に2021年から盛り込まれ、現在も使われている表現です。ウェルネスはウェルビーイングの主に心身に関する健康を指すと考えられます。
このウェルビーイングという概念ですが、実は結構古いものです。1948年に発効したWHO憲章の序文に健康の定義というのがあります。英語ですが原文を引用します。

「Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infrmity. 」

「完全な肉体的、精神的及び社会的福祉の状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない。」(昭和26年官報掲載の訳)

この昭和26年の訳では福祉と訳されている言葉がwell-being(ウェルビーイング)です。福祉とはちょっと違う概念ですので正しい訳とは言えませんが、当時も現在も日本語にウェルビーイングに相当する言葉が存在しません。ともかく、WHOの健康の定義では、健康はウォルビーイングであると書かれています。
今日の本題は、このウェルビーイングとはどのようにすれば実現するのかを、遺伝と環境というキーワードに着目して考えていくことです。

最近よく聞く言葉に、自分らしく生きるというものがあります。その一方で、過度に平均値に近づけようとする風潮も感じます。
例えば、BMI=22kg/m2が良い(標準)という話は昔からあります。しかし、なぜか最近は痩せていることが健康であるという話になっているように思います。
では、みんながBMI 22になれば、健康になるのでしょうか。実は身長は90%以上、体重も60%以上の遺伝率と言われています。この遺伝率というのは、集団のバラツキ(人と人の違い≅個人差)の内、遺伝によって説明される割合のことです。

だとすると、集団の最適値(平均値)が必ずしも自分にも当てはまるわけではありません。“自分”の最適値に遺伝の影響が大きい(大小は項目により異なりますが、概ね50%以上は遺伝の影響という結果が多いです)とすれば、遺伝の影響に逆らって環境の影響を増加させて集団の最適値に近づけることで、かえって不健康になることもあり得るということです。

もちろん、この話は誤解なきようにお伝えしなければいけません。例えばBMIにしても、正常な範囲内での話であって、BMI30を超えるようなところに自分の遺伝的な最適値があるという人はおそらく殆どいないはずです。

つまり、正常範囲内であれば、遺伝の影響でBMIが高い人、低い人、がいることは当然のことで、その人にとっての最適値が存在するはずであるということです。

しかも、集団の最適値に自分の最適値を近づけようとすることが、より良くなるか悪くなるかは今の所わからない、ということです。なぜわからないかと言いますと、遺伝の影響を測定して示すだけの研究がまだ進んでいないということです。
理論上は、遺伝と環境の影響を全て解明できれば、その人の遺伝(正確には遺伝子だけではなく、遺伝環境交互作用、遺伝環境相関、エピゲノム、などなど非常に複雑な影響の結果としてBMIが決まっています)と環境(食事や運動、仕事などその人に関わる全ての環境)を他の疾患との関連や今後の生活まで含めて計算できれば、その人にとって最適なBMIが計算できるかもしれません。しかし、そこまではまだまだ長い道のりです。

それでは、どうするのがいいのでしょうか。そこで“自分らしく”が重要になるのです。最近は情報過多の影響か、何事においても脱個性、均一化が進んでいるように思います。だからか、個性、多様性が叫ばれています。本来、人と違って当たり前なわけですから、自分らしい生活を続けることが、ウェルビーイングにつながるのではないかと考えます。

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