(本書の第7章では、近代水泳の父・杉本傳が天理で指導した3年間の様子が克明に描かれています。)

大阪・茨木高校で生徒たちから「デンさん」と親しまれた教師・杉本傳(すぎもと・つたえ)。彼は、日本で初めて近代的な水泳プールを作り、新泳法を導入しただけでなく、五輪メダリスト高石勝男をはじめ、日本水泳界を牽引する名選手を育てた名伯楽であり、日本水泳界の先駆者でした。
本書は、同じ茨木高校出身の脚本家・演出家、大野裕之氏が、家族や関係者の証言、茨木高校から発掘された膨大な資料をもとに、大正から昭和、戦争を経て戦後に至る杉本傳の知られざる生涯を丹念に描いたノンフィクションです。
特に注目したいのは第7章。
天理大学創設者・中山正善が「天理に水泳を、特に女子水泳教育を根づかせたい」と願った情熱に杉本傳が深く共鳴し、夫婦で「水鏡寮」に住み込み、過ごした3年余りの濃密な日々が描かれています。その中で、学生たちと共に築いた水泳教育の基盤は、今も本学の歴史に息づいています。
さらに、天理短期大学卒業生でオリンピアンとなった大石康子さん(現・山本)や水泳部指導者など、関係者へのインタビューを通じて、杉本傳の指導者としての矜持と、天理大学の理念が交差する瞬間が鮮やかに浮かび上がります。
日本水泳史に残る指導者の情熱と、天理大学の歴史をつなぐ貴重な記録。ぜひ本書で、その物語に触れてください。
書名:『デンさんのプール 杉本傳~水泳ニッポンを作った男』
著者:大野裕之
出版社:
発刊日:2025年11月5日
ISBN:9784093898218
目次
第1章 モダニズムの大阪から茨木の「鶏学校」へ
第2章 川端康成も掘った、日本初の手作りプール
第3章 クロール泳法の導入と「水泳王国・茨木」の誕生
第4章 世界の舞台で夢を叶える―オリンピックへ
第5章 「一生を長距離選手のつもりで泳いでいくんだよ」―デンさんの教育論
第6章 戦争とスポーツ 茨中の受難
第7章 晩年―『人と同じ道は歩かへん』(天理大学での指導)