世の中では、科学の進歩に伴い、これまで多くのことが解明されてきました。その中の一つに、「痛み」に関する認識の変化があります。
いまから5年前、世界で最も権威のある学会の一つである国際疼痛学会において、「痛み」の定義が変更されました。これは、「痛みそのものが完全に解明された」という意味ではなく、今後の痛みに対する理解や対応のあり方が変わっていくことを象徴する出来事です。特に注目すべきは、新しい定義の中に加えられた記述が、これまで痛みに苦しんできた患者さんたちの実感により近づいているという点です。
たとえば、「痛みを訴える人の言葉は尊重されるべきである」ということ、「痛みの感じ方は、その人がこれまでの人生で経験してきたことによって形づくられる」ということ、さらに、「言葉で表現される痛みは、数ある痛みの表現方法のうちの一つにすぎない」という点も、明確に記されています。
昔、「痛いの痛いの飛んでいけ」と唱えてもらうと、本当に痛みが和らいだような気がしたこと。あるいは、看護師さんの顔を見ただけで「痛みが軽くなった気がする」と話してくださった患者さんの言葉。こうした体験が、決して「気のせい」などではなく、現代では痛みの理解の一部として認められるようになってきたのです。
患者さんの語る言葉に心を傾け、その奥にある「言葉にならない言葉」を感じ取る。そんな「達人看護師」を目指して、学生の皆さんにはぜひ成長を続けていってほしいと思います。
言葉にすると、どうしても薄っぺらくなってしまう苦しみや悩み。言葉では語りきれないその現実に、想像を巡らせ、思いを寄せる。
その姿勢こそが、ケアに携わる者にとって何より大切なことのように思えてなりません。
(医療学部・看護学科 上仲久・教授)