「健康」という言葉を日常的によく使いますし,われわれ看護を専門とするものは,健康の専門家だったり,健康を保つすなわち保健の専門家だったりするわけです。しかし,私自身が果たして「健康」という概念をどれほど理解できているのか,といつも考えています。今日も学生への講義の中で,健康とは何かを述べてくださいと投げかけ,色々と面白い回答が聞けました。回答の内容は詳述しませんが,人によって随分と捉え方が違うものだと思いました。私は,この人によって違うということが重要なのではないかと思っています。日本には昔から丈夫という概念はあったそうですが,健康という概念が使われ出したのは200年程前からだそうです。今のところ,緒方洪庵が意図的に健康という言葉を用いたということが定説のようです。しかし,この緒方洪庵のいう健康の意味を,単に病気ではないというように理解するのは不十分なようです。例えば,病気だけど健康,病気ではないが健康でもない,などと考えだすと,健康とは何かがますます難しくなります。健康というと,WHOの健康の定義というものがここ80年程使われています。これも一見単純明快なようで難解です。簡単に言ってしまえば,健康=ウェルビーイング(health is well-being)となっています。ならば,ウェルビーイングを理解できなければ健康も理解できないわけですが,これがまた日本語にない概念です。そのため,今でもウェルビーイングとカタカナになっていたりします。ところが最近,このウェルビーイングという単語もよく目にするキーワードです。直訳すれば,「良い状態にある」,とでもなりますでしょうか。では良い状態(well)とは何ぞやとまたなるわけです。そのような概念を正しく理解できないまま,とりあえず,健康だウェルビーイングだ,ということで,色々と健康やウェルビーイングになるためにわれわれは右往左往しているわけですが,まずは目指すべき健康やウェルビーイングが何なのかを理解しなければいけないな,と考えている日々です。
(医療学部・看護学科 乾富士男・教授)