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京都ラテンアメリカ研究所の創設

                

(1)京都外国語大学とラテンアメリカとの関わり

ラテンアメリカと京都外国語大学の関係は1963年にさかのぼる。この年イスパニア語学科が設置された。続いて67年にブラジル・ポルトガル語学科が設立され、本学におけるラテンアメリカ研究にとっての車の両輪が揃うことになった。本学の初代総長がメキシコ訪問の帰途急死されたこともあり、ラ米諸国のなかではメキシコがもっとも関係深い国となった。メキシコとの交流のなかで71年本学にメキシコ名誉領事館が開設され、さらに74年にグアダラハラ自治大学とのあいだに交流協定が結ばれ、毎年留学生の派遣や教員の交換などさまざまなレベルの交流が現在まで続いている。このような成果にもとづいて80年にメキシコ研究センターが発足した。京都外国語大学は『言語を通して世界の平和』を建学の精神にしており、言語の習得にはその言語圏の地域研究が不可欠であるとの認識に立ち、地域研究が教育の重要な柱となっている。メキシコ研究センターの設置は、メキシコおよびラテンアメリカを教育・交流対象から調査・研究対象とする大きな転換点となった。メキシコ研究センターを起点として情報誌『メキシコ研究センター通信』を発行し、各種展示会、講演会、研究会を開催するなどの活動を行った。

(2)地域研究としてのラテンアメリカ

 本学の英語表記は(Kyoto University of Foreign Studies)であり、決して(Foreign Language)ではない。このことからも外国語の習得は地域研究を前提あるいは目的として行うものであり、その逆ではないことがわかる。地域研究は元来、植民地経営を有効に行うことや敵性国家に対する実情調査を目的として生まれた。しかしポストコロニアル、あるいはポスト冷戦をもちだすまでもなくこうした目的は過去のものとなり、地域研究のあり方は異文化を他者として認識、理解したうえで共生をめざすものとして位置付けられるようになった。94年に発足した国立民族学博物館地域研究企画交流センターの文書に「地域研究の究極の目的はなにか。人間集団が互いに認識しあい、平和に生きるための叡知を探ること」とある。したがって本学でのラテンアメリカ地域研究も平和や共生などの価値実現に近づくための一分野として位置づけられる。

(3) 京都ラテンアメリカ研究所の方向

 メキシコ研究センターの設置から20年を経過して、本学のラテンアメリカにおける協定校もスペイン語圏ではアルゼンチンのベルグラーノ大学、ペルーのカトリック大学、ブラジルではフルミネンセ連邦大学以外にもブラジリア大学、サンパウロ大学と拡大し、教員や学生の関心・対象地域の多様化も進んだ。こうして京都という地域性を生かしながら実情を名称に反映させるためにメキシコをラテンアメリカとし、調査研究を活動の中心に位置づけるという意味で、メキシコ研究センターは2001年4月新たに「京都ラテンアメリカ研究所」として再発足することになった。研究体制は今後整えていくことになるが、ラテンアメリカの多様性に対応する多地域にわたる学際的な共同研究をめざしている。このため研究所員として海外協定校の教員を含む学内外の研究者に依頼しており、カバーする地域はメキシコ、中米、ペルー、ブラジル、アルゼンチン、専門分野は考古学、民俗学、歴史学、言語学、文学、経済学、政治学、社会学、教育学、女性学に及び、今後 共同研究や連続講座などの企画のなかで生かしていきたい。今回、この紹介を掲載していただいた天理大学「アメリカス学会」をはじめ、関係各位の皆様のご指導、ご協力をよろしくお願いしたいと思います。

辻 豊治(京都ラテンアメリカ研究所主任研究員)