Census in USA

塗り替えられる米国の人種文化地図

予想越えるヒスパニックの人口増

 米国で昨年4月から1年がかりで行われた大規模な国勢調査の結果、この国ではここ100年の間にこれまでにない深刻な人種的文化的変化が起こっている(英エコノミスト誌)ことが明らかになった。

 その特徴は^全人口は着実に増えており2億8140万人に達した。これは過去10年間で13%増である。_ヒスパニック(ラテンアメリカ系)の人口上の比率が予想を遙かに上回って伸びており、黒人の人口を超えた可能性がきわめて大きい。`今回の国勢調査ではじめて自らの属する「人種(race)、民族(ethnicity)」を二つ以上書き込めるようになったが、全国民の1.6%が二つあるいはそれ以上の書き込みを行っていた。つまりその人たちは自らが混血であることを明らかにしたのである。aしかし混血という新たなカテゴリーが生まれたことにより、これから公民権、貧困、公教育などに関係する社会文化計画の見直しを余儀なくされる。―などである。

 今回の国勢調査は米国で10年に1回大規模に行われたもので、昨年4月から実施された。基本的に個別訪問の面接で行われ、与えられた質問に答える形のもので、いずれも本人の申告に基づいている。人種の選別では、@白人A黒人もしくはアフリカン・アメリカンBアメリカン・インディアンとアラスカ・ネイティブCアジア人Dネイティブ・ハワイアンと他の太平洋島民Eその他の人種―に分かれており、今回から自らの意思で二つあるいはそれ以上の項目を選ぶことができるようになった。また、人種とは別に、民族としてヒスパニック(ラテンアメリカ系)かそうでないかの選択が要求されている。

 国勢調査の結果はまもなく米商務省から刊行されるStatistical Abstracts of the United States 2000で明らかにされるが、徐々に公表されている資料に基づき、その注目すべき問題点をつぎに紹介してみよう。

 *2000年3月末現在の米国の人口は2億8142万1906人(1990年は2億4879万9873人)であり、10年間で13%増となっている。人種・民族別の割合で示すと次のようになる(カッコ内は1990年の割合)。

白人 69.1% (75.6%)

黒人もしくはアフリカン・アメリカン

12.1% (11.7%)

アメリカン・インディアンとアラスカ・ネイティブ

0.7% (0.7%)

アジア人 3.6% (2.7%)

ネイティブ・ハワイアンと他の太平洋島民

0.1% (0.1%)

その他の人種 0.2% (0.1%)

ヒスパニック 12.5% (9.0%)     

2つ以上を選んだもの 1.6%

 この数字で見る限り、人口比の割合は白人の減少、黒人の微増、ヒスパニックとアジア人の急増が目立っている。今回の調査でクローズアップされたもう一つの特徴は、これまで自ら黒人と見なしていた人々が20人に1人(180万人)の割合で黒人の項目と同時に他の1つ以上の人種の項目にも書き入れていることである。

 では今回の調査結果で明らかにされた結果を、さらにヒスパニックに絞ってみると―。

 *米国でのヒスパニックの人口は、過去10年間で60%増、黒人数をわずかに越えたと見られる。主たる原因は合法、非合法を含めたラテンアメリカからの移民者の急増。スペイン語を話す人々を祖先に持つヒスパニックの数は、黒人を含めた他人種系をいれると、1990年の2,240万から3,530万に増加した。以前に国勢調査局が推定した数を約300万上回っている。逆に、黒人の人口は3,000万(1990年)から3,470万に増えたにすぎずヒスパニックはついに黒人数を越えたとみられるわけである(統計上の誤差と非合法入国者の把握の困難を考えると断定するのにはまだ無理がある)。これまでヒスパニックが黒人数を上回るのは2005年と見られていたので、とにかく移民者を主体にヒスパニックの急増は異常である。

 *ヒスパニックの中での旧母国をみると、メキシコから66.1%、その他の中南米諸国から14.5%、プエルトリコから9.0%、キューバから4.0%、その他の諸国から6.4%である。

 *ヒスパニックは今なお南西部、カリフォルニア、フロリダ、ニューヨークに集中して居住しているが、メキシコや中米からの新移民はノースカロライナ、ジョージア、アイオワなどこれまでほとんど見かけなかった諸州にもこの10年で大量に登場している。

 *外国生まれのヒスパニックの4人に1人は米国で永住権を得ている。

 *ヒスパニックの世帯の30.6%は5人あるいはそれ以上の家族構成になっている。2000年3月現在の失業率は6.8%、5人に2人はハイスクールをでておらず、給料水準でもヒスパニック系でない白人よりかなり下回っている。

 こうしてみると、米国内ではわれわれが考える以上に大きな社会変革が起こっており、急速に「国のかたち」が様変わりしていることがよくわかる。ともすると、世界はワシントンの動きと米経済の動向のみに目を奪われがちであるが、社会構造が内部から大きく変革する兆候にますます注目する必要があるだろう。

(北詰洋一)