Library

情報検索最前線(上)

ハイテクあるいはIT革命ブームに沸くアメリカは、史上最長の経済成長を続けている。情報革命といわれる時代であるが、情報革命の恩恵を受けているのはビジネスマンや投資家だけではない。学術研究の分野にも情報革命の波は押し寄せている。とりわけ、学術研究のための情報の中心地である図書館も従来からの形を変えつつある。かつて図書館での調べものは、カード型の目録や冊子体の目録をひき必要な文献を手に入れる、という流れであった。しかし、現在では自宅や研究室にいながら必要な文献が短時間で手に入るようになっている。ここでは、情報大国アメリカを発とする新しい学術情報システムについて、主に、電子ジャーナルも含めた英文の雑誌記事の検索方法と入手方法に関して、紹介したい。

学術雑誌は、研究者の研究結果、特に新知見や新発見を迅速に広範な人々に知らせる場である。インターネットの普及は、これら雑誌の速報性と広報性をさらに推し進める原動力となるが、具体的な情報システムの紹介に入る前に、図書館の現状を検証したい。

言うまでもなく図書館は利用者の知的欲求を満たすため、或いは、研究のために必要な資料をそろえ提供していくところである。しかし、現実には一つの図書館であらゆる資料を網羅的に所蔵するのは不可能である。出版物の量は年々増加傾向にあるが、図書館の予算は必ずしもそれに見合う形では増えておらず、むしろ削減される傾向にある。加えて、雑誌の値段の高騰は図書館の集書能力を劣らせている。

このような状況にあって、図書館が利用者に満足されるようなサービスを提供していくには、インターネットを活用した図書館間のネットワーク化と商用も含めた外部データベースの利用が不可欠である。では、具体的に日本の学生や研究者にとって実際に利用可能な図書館ネットワークやデータベースにはどのようなものがあるのであろうか。

まず情報入手の第一歩である検索方法についてであるが、現在、図書館資料の検索で主流となっているものは、OPAC(Online Public Access Cata-log, オンライン利用者目録)である。OPACにより図書館に出向かずとも、必要とする文献の所蔵情報がインターネットを通じて確認できる。日本では、国立情報学研究所(旧学術情報センター)のWebcatによって、必要とする文献がどこの図書館に所蔵されているかを検索することが可能である。加えて、アメリカの開発した共通の通信プロトコールZ39.50を使用している図書館であれば、自館のOPACのインターフェイス(自分にとってなじみのある検索画面)で国外の図書館のOPACも横断的に検索できる。つまり、一つの文献の所蔵を確認するために、各図書館のOPACを一つ一つ検索する、という必要がなくなりつつある。

次に実際に文献を入手する方法にはどのようなものがあるのだろうか。図書館には従来からILL(Inter-Library Loan, 図書館間相互貸借)というシステムがあり、自館にない資料をそれを所蔵する他の図書館から取り寄せることができる。しかし、現物を取り寄せることはまれで、必要部分のみ複写して取り寄せる方法が一般的である。また、複写文献のうち大部分は雑誌記事であり、雑誌の一部分のみであるので、雑誌そのものを取り寄せるより、必要部分のみ入手する方が合理的である。

しかし、ILLの問題点は、速報性が要求される雑誌記事でも入手に時間がかかる(通常1週間から2週間)ことである。

そこで、検索から必要文献の入手までを24時間以内に完了できるデータベースサービスが出現した。代表的なものはUnCoverである。これは、元来、コロラド州の図書館コンソーシアムの逐次刊行物の管理システムであったが、現在では、1万8千タイトル以上の学術雑誌の目次速報データベースと文献を提供するサービスに発達し、注文した文献は、ほぼ全て24時間以内に、また電子的に蓄積されている記事は、1時間以内にFAXで入手できる。

さらに、インターネットをフルに活用した民間のデータベースもある。それはミシガン州にあるBell & Howell Information and Learning(旧UMI)社のProQuestである。ProQuestは、約5千種の英文雑誌の全文記事をインターネットで提供している。速報性(記事発行後遅くとも48時間以内にサーバ上に掲載され、指定先への送信は平均1分)に加えて、必要な画像やグラフを画面上で拡大させて見ることもできるのが特長である。

以上のように文献提供の迅速性は高まっているが、現在最速のものは、近年急速に増加している、紙による発行ではない電子的媒体による出版、すなわち電子ジャーナルである。電子ジャーナルの特長は、まず出版の即時性であり、論文の査読終了後直ちに公開されるため、紙での出版よりも数週間早いことである。さらに、電子ジャーナルは、HTMLの機能を利用し、引用文献リストにリンクを張ることによって、引用文献の本文も閲覧可能である。オハイオ州ダブリンに本部を置き、Library of Congress(米国議会図書館)、ハーバード大学、その他、世界74カ国、3万6千館以上のあらゆる種類の図書館が加盟するOCLC(Online Computer Library Center)は、世界最大の書誌データベースWorldCatを含むデータベース群と2千5百誌以上の電子ジャーナルコレクションを統合したサービス、FirstSearchを提供している。

以上、近年の学術情報システムの進展状況を概観した。以前は情報の集積地として図書館が存在していたが、インターネットの普及に伴い、利用者が図書館に足を運ばずとも、必要な記事の全文を入手することも不可能ではなくなりつつある。雑誌記事索引を調べ、必要な記事がどの雑誌に掲載されているかを知り、その雑誌の所蔵情報を調べ、当該雑誌を手にし、必要な記事を複写して利用する、という従来の一連の作業が自宅や研究室のパソコンを利用することによって座ったままで迅速にすべて出来てしまうのである。

(三濱靖和=天理図書館主事)

 

【参考文献】

時実象一「インターネット時代の学術雑誌出 版」『学士会会報』 No.828, 2000, pp.77- 82.

永田治樹『学術情報と図書館』丸善、1997。

山下幸侍「インターネットで全文入手: ProQuest Direct」『薬学図書館』Vol. 43, No. 2, 1998, pp.166-173.