Lateral Thinking

“高等遊民”で猛暑をしのごう

 

 どちらにしても暑いなら、いっそ忍耐力を養うつもりで、専門から少しずれた読書を楽しむのはいかがですか。

 

その1:先日行われた天理大学恒例の水曜懇話会で「先生方の研究対象も、もう少し広い基盤の上にたったものがあってもいいのではないですか」と“虫の目”と同時に“鳥の目”の必要性を厚かましくも説き、それに相応しい参考文献を上げておいたところ、それについての説明がなかったとご批判を受けたので、ここにその文献と一口メモを紹介させていただきます。(何れも日本版で手に入るものばかりで、年号は原著書の刊行年、出版社は日本で一番安く手に入る版です)。

§A. トフラー著『第三の波』(1980年、 中公文庫)=IT革命の中身を20年前に見事に予言した名著。著者は刊行当時、専門家から酷評されたことを得意にしていた。

§アラン・ブルーム著『アメリカン・マインドの終焉』(1987年、みすず書房)=1960年代の“社会革命”の生んだ平等主義がいかに米国の大学を悪くしたかを批判している。

§M・ミッチェル・ワールドロップ著『複雑系』(1992年、新潮文庫)=生命現象から政治、経済までをくくれる方程式を探るためにサンタフェの研究所に集まった世界の知恵者の実験。

§サミュエル・ハンチントン著『文明の衝突』(1996年、集英社)=イデオロギーの終焉後の世界の秩序、あるいは不秩序を

予言した話題の書。日本をいれる「文明」がなくて苦しんでいるのが面白い。

§村上和雄著『生命の暗号--Something Great』(1997年、サンマーク出版)=ノーベル賞級の遺伝学者が“虫の目”で極微の世界を追求していったら、考えられないほど大きな何かの意志が働いているとしか考えられない世界に到達してしまう。

§立花隆著『脳を鍛える』(2000年、新潮社)=専門が何かわからない名物評論家が数年前東京大学教養学部で行った講義録の第1部。有頂天になっている新入生をこてんぱんにやっつけているが、不思議に若者にやる気を起こさせるものがあるからしたたかである。引用を一言「わからないものに出会わないかぎり、人間の知性は鈍化します」。

その2:北米とラテンアメリカは文化的にかなり異なっており、文学的にも異なったリズムを奏でることはとくによく知られている。当然、お互いに拒否反応をおこし無関心を装っていると思われていたが、意外にたがいを意識していることを知り、書かれているものの数も少なくなく、それを丹念に集め、あるいは執筆をして集めた「アンソロジー」が次の本である。

アムハースト大学でスペイン語を教えいている Ilan Stavan 教授が編集した Mutual Impressions―Writers from the Americas Reading One Another (1999, Duke University Press)である。どの作家の作品がどの作家にいかに読まれているかを知るのは、アメリカスという発想を理解するのに重要な材料になるだろう。以下、南北アメリカの

 

作家同士の組み合わせを同書の目次から紹介する。

「南」の作家が「北」を読む

Prologue: Pedro Henriquez Urena

Jose Mariti on Walt Whitman

Victoria Ocampo on John Steinbeck

Alejo Carpentier on Herman Melville

Carlos Fuentes on William Styron

Jorge Luis Borges on Nathaniel Hawthorne

Gabriel Garcia Marquez on William Faulkner

Hiber Conteris on Raymond Chandler

Ezequiel Martinez Estrada on Henry David Thoreau

Jose Bianco on AmbroseBierce

Antonio Benitez Rojo on Lafcadio Hearn

Juan Carlos Onetti on Vladimir Nbokov

Mario Vargas Llosa on Ernest Hemingway

Nicolas Guillen on Langston Hughes

Octavio Paz on William Carlos Williams

Pablo Neruda on Robert Frost

Julio Cartazar on Edgar Allan Poe

 

「北」の作家が「南」を読む

Prologue: John Barth

John Updike on Auguston Roa Bastos

Grace Paley on Clarice Lispector

Katherine Anne Porter on Jose Joaquin Fernandez de Lizardi

William H. Gass on Jorge Luis Borges

Mark Strand on Nicanor Parra

Paul West on Alejo Carpentier

Waldo Frank on Ricardo Guiraldes

Barbara Probst Solomon on Teresa de la Parra

Robert Bly on Pablo Neruda

Kenneth Rexroth on Homero Aridjis

Robert Coover on Julio Cortazar

Susan Sontag on Machado de Assis

Thomas Pynchado on Gabriel Garcia Marquez

William Kennedy on Ernesto Sabato

*

その3:ここ140週間、ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーリスト(ノンフィクション部門の上位15位まで)に連続名を連ねているが日本で翻訳されていないらしい本がある。不思議な現象である(小生の見落としであればご容赦を)。

その本の名は Tuesdays with Morrie―An Old Man, a Young Man and Life's Greatest Lesson。筆者はMitch Albomと云う作家で、出版したのはDoubleday 社。

筆者の大学の先生とのお付き合いの実話のようで、すでになくなっているMorrie先生の写真が掲載されている。「受講者」は彼独り、毎週火曜日の放課後、彼の家で様々な教訓をうる。僅か200ページ足らずの軽い読み物だが、悲しみについて、家族、感情、歳をとることの恐怖、お金、結婚、文化、充足した日、そして死・・・について、気軽に話していく。

ニューヨークの教え子が送ってくれたものだが、よほど売れ行きが良いようで、最近、筆者自身の吹き込んだテープが売り出された(若干早口なので、小生には原本をもっていないとついていけない)。

ベストセラーがどぎついスリラーやドキュメンタリーものが多い中で、30年前、Erich SegalのLove Storyを読んだときのさわやかさを思い出す。

米国人には、古き良き時代の安らかさを求める心は残っているようだ。

(北詰洋一)