letter from New York

正しい大学の選び方?

 

 4月になると遅まきながらニューヨーク州北部にも春が訪れます。アメリカの大学で4月から5月の上旬といえば、年度の締めくくりになる大切な時期。

 この時期は、キャンパス訪問のシーズンでもあります。大学から入学許可を得た学生が(特に複数の大学にパスした学生が)大学のキャンパスを訪れ、教員や現役の学生に会ったり、大学の施設や講義の見学をし、その大学に行くかどうかを決めるのです。ガイドは普通、ボランティアの学生で、ツアーには教室や図書館だけでなく、寮、体育館、食堂、レジャー施設など、学問関係以外の施設も含まれます。

 アメリカに来たばかりの頃に、アメリカ人が大学を決める際にいかに生活環境を重視するかということに驚かされました。4年間(またはそれ以上の年月)を過ごす大学は「学問の場」だけでなく、大切な「生活の場」であると考えられているので、毎日の生活環境は偏差値や大学の知名度以上に重要だというのです。このような考え方に基づいて、入学見込みの学生やその家族が大学のキャンパスを訪れ、模擬入学体験を通して大学を決めるのはめずらしくないことなのです。

 勿論、大学の施設の内容もキャンパス訪問の数も大学によって様々ですが、全寮制のリベラルアーツ大学であるハミルトン大学には、かなりの数の訪問者が訪れます。4年間キャンパスの寮で過ごすことになるのですから、キャンパスの環境が気になるのは当然のことでしょう。この「プロスペクティブ(prospective student の略)」と呼ばれる入学見込みの学生が大学訪問をする時期には、教員の方にも「この期間は試験を避け、普通の授業を行うこと。見学希望者がクラスに入ることを快く許可すること」などというメモが送られてきます。一般的に、リベラルアーツ系の大学は田舎にあることが多いといいます。一定の費用でできる限りの施設の充実をはかるには、地価の安い地域にキャンパスを設けるほうが都合がいいのでしょうが、学生の中には「これは4年間勉強に専念させるための、大学と親との陰謀なんだ!」という意見も。確かにハミルトン大学のあるクリントンは、人口が3,000人のかわいい町で、ダウンタウンにもお店が10軒程あるだけ。このような環境の中で、学生は入学してから1年間は車を持つことも許されないので、キャンパスでたいていのことが済ませられるようになっています。郵便局、キャッシュコーナーは勿論、喫茶店、ファーストフードのレストラン、無料で映画の見られるシアター、フィットネス・センター、ゴルフ場やスケートリンクまで揃っています。そういえば10年以上前に初めてインディアナ大学に留学した時も、キャンパスにゲームセンターやビリアード場、ボーリング場があるのを見て大変驚いたことを覚えています。

 大学院レベルになると、大学がよりよい候補を確保するために、候補者をキャンパスに招待することもあります。大学や学科によってはこのための経費が初めから設けられているところも少なくありません。在学生や卒業生の学会での成績や就職先によってプログラムの評価が左右されるので、学科の「質」確保の手段としての優秀な候補者の接待は、ある意味では将来への投資でもあるわけです。学科主任や上級の学生との面談のスケジュールを組んだり、候補者の興味をそそるような場所へ案内したり、サービスにも余念がありません。

 このようなキャンパス訪問は大学や教員との相性を測るためにも役立ちますし、入学する前に新入生または家族の不安を取り除くというメリットもあります。学位を取得するのも大切なことですが、その目的を達成するだけでなく、大切な青春時代の毎日を有意義に過ごせるように、大学との相性、自分の興味や特技を活かすことのできる環境の確保などに、もう少し重点をおいてもいいのではと思わずにはいられません。             

(佐藤奈津)