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猿谷 要編『アメリカ史重要人物101』(新書館、1997年、252頁、1600円)

 本書は、いわば「アメリカの立役者カタログ」とも言える快著である。快著だ、という理由を以下、思い付いたままに列挙してみよう。

 (1)なによりもまず、「アメリカを創った人たち」[編者]を通じて、「アメリカという国を多面化し、立体化して眺めようとした」[編者]コンセプト、視点が意外に新鮮だからだ。これは出版社の企画によるものらしいが、各重要人物(立役者)について見開き2頁をあて、彼らが各時代において何をし、どのように各時代のありように影響を及ぼしたのかについて記述している。つまり、至極当たり前のことだが、この本は、「歴史」は結局、「時代の人」によって創られ、その歴史がまた「次代の人」をうみだし、しかもそうした立役者は「歴史」に登場してこない無名の人々(大衆)によって創られるものだ、ということをあらためて実感させてくれるからだ。

 (2)立役者の選抜の仕方が検定教科書的でないところがいい。編者によれば、執筆者の意見を参考にしながら「人種・民族別、性別、分野別など」に配慮して「101人」に絞り込んだという。その苦労の成果は本書で確認されたいが、さわり的に何人かを紹介してみよう。「コロンブス(クリストファー・)」、「ワシントン(ジョージ・)」、「リンカーン(エイブラハム・)」、「フォード(ヘンリー・)」、「ケネディ(ジョン・F・)」、「レーガン(ロナルド・)」といった人々は当然と言えば当然だろうが、「オハラ(スカーレット・)」、「キング・コング」も堂々選抜されている!また、17世紀末、草創期に起きたアメリカ史の汚点とも言うべき魔女狩りをめぐる史実も「魔女たち(セーレムの魔女)」の項できちんととりあげられている。編者は「内容を多彩にするため」と、ずいぶん控え目に断り書きをしているが、編者、執筆者の「歴史」に対するまなざしの豊かさ、というよりもそのセンスのよさに脱帽せざるをえない。ジャズトランペットの神様「アームストロング(ルイ・)」、黒人初の大リーガー「ロビンソン(ジャッキー・)、TVのもつ社会的影響力を知らしめたTVジャーナリスト「クロンカイト(ウォルター・)」、日本でも大いにその名をはせたPLAYBOY誌発行・編集人の「ヘフナー(ヒュー・)」、あえて紹介するまでもない「モンロー(マリリン・)」等々、あらためて挙げられてみれば、なるほど、と納得できるアメリカの各時代・時期の何たるかを代弁してくれる「鍵人間」ばかりだ。

 (3)この本が日本人アメリカ研究者によって執筆、編集されたものだ、ということである。一国の歴史は当該国だけの独占物ではなく、他国のまなざしで相対化されてしかるべきものだ、というこれまた至極当たり前の歴史に対する姿勢が鮮明である。だから、アメリカ人アメリカ研究者によっておそらく選抜されなかったかもしれない人々も登場している。たとえば「ハーン(ラフカディオ・、小泉八雲)」、ライシャワー(エドウィン・)」、戦前・戦後ハリウッド映画で活躍した日本人スター「早川雪洲」、日系二世の政治家「イノウエ(ダニエル・)」等々である。こうした人々を通じて、私達はあらためてアメリカ史の多面性、分厚さを「知る」ことができるのだ。

 他方、この本は単なる「アメリカの立役者カタログ」にとどまってはいない。いくつか親切な工夫がほどこされている。まず第一に、「アメリカの全体像を見失わないように、・・・4つの時代区分を設け、各時代ごとにその流れの概略が理解できるよう解説がついている」[編者]。4つの時代とは「新しい共和国の誕生」(〜1800年)、「分裂と統合と膨張のエネルギー」(1800〜1900年)、「世界的強国となって」(1900〜1945年)、「アメリカの世紀とその矛盾」(1945年〜)である。第二に、関連地図、略史年表が付されている。第三に、重要人物名がまず巻頭で「五十音順」および「アルファベット順の2way方式で検索できる。さらに巻末には重要人物に関連する人名の索引も付けられており、101人の選から漏れた人も、ここで敗者復活の機会が与えられている。なお各重要人物ごとに関連文献もリストアップされているのは、ますますその人物について知りたい読者にとっては大変便利だ。

(藤巻正己)