Letter from New York

留学生に悩みの米新移民法

 今、アメリカ政府の教育対策と昨年10月に施行された新移民法が在米日本人留学生の頭痛の種になっています。具体的な変化としては留学ビザの発行・再発行の条件の基準、不法滞在の新定義、不法滞在した場合のペナルティーの設定などが挙げられますが、これらの影響もあって一時のアメリカ留学ブームが勢いを失い始めているといいます。

 従来の移民法は、あらゆるタイプの学生にも対応できる柔軟なものでした。それゆえ、多くの留学生、研究員たちが世界各国から訪れ、各地の大学、語学学校、及びその周辺地域に学術的、そしてまた経済的にも少なからず貢献してきたとも言えます。学ぶ意志のある学生の全てに平等に機会を与えてくれるアメリカは、全世界の留学生のあこがれの地であったと言っても過言ではありません。ところが、新移民法下では理由のある学生はもちろんのこと、アメリカで学ぶ資格を十分に持ち合わせた学生や研究員までもがビザの収得に苦労する可能性が出てきました。

 新法によれば、留学生がたとえ有効期間中のビザを持っていても、一定数の単位をとっていない場合や、とっていても長期間クラスに出席していない場合、「アウト・オブ・ステイタス」であるとみなされます。この期間は不法滞在扱いになりますが、この期間が180日を越えると、その後3年間アメリカ入国を禁じられます。(12カ月を越えた場合は10年間入国を禁じられる)今までに問題にならなかったことにこのような大きなペナルティーが科されただけに、これからの自分のステイタスを案じる留学生も多いようです。現在そのような問題に直面していなくても、身近な人に起こりうるというだけで神経質にならずにはいられないのです。実際に、以前のように学期の途中についていけなくなったからといって、授業を簡単にドロップ(放棄)するわけにもいかなくなりました。私が学生の頃には、金銭的な余裕がなくてアルバイトをしながらパートタイムで大学に通う留学生もいたものですが、新移民法下ではそれも許されません。

 東京、大阪の大使館、領事館でも、新移民法の施行以来F-1(学生)ビザの取得、更新が非常に難しくなってきているといいます。以前のように必要書類を提出するだけでなく、本人が大使館、領事館に赴いて面接をうけることを要求される場合もあるようです。特にアメリカで、ある期間中にアウト・オブ・ステイタスになっていた学生がビザの更新を断られるケースが多々出てきました。

 現在世界の留学生の40%(約45万人)がアメリカで学び、更にそれに加えて一年に6万人近い研究員がこの国を訪れています。この数字はアメリカが国際教育界の中心的存在であることを証明していますが、新移民法が定着することによって、「教育大国」としての不動の地位までも危ぶまれる可能性もあります。既に、昨年のアメリカ国内の留学生の増加率は過去26年間で最低の0.3%にとどまり、教育界に大きな波紋を呼んでいます。

 私自身も以前から移民法に対して疑問を抱いていましたが、それは違った面に対する疑問でした。いろいろな細かいことに対して厳しい既定がある反面、いいかげんと思えるほど「寛容」(?)すぎるところがあるという印象をもっていたのです。例えば、普通は取得が難しいはずの永住権を一定の期間中の何千人もの外国人に抽選で発行したり(私の知り合いにも申し込み用紙を何百枚も送った人がいます!)、不法滞在で強制送還されることになった妊娠中の女性が出産したところ、子供がアメリカ籍になるからと滞在を許可したり...。こういった話を聞くと、「もう少し厳しく取り締まってもいいのでは」と思ったのですが、その矛先が留学生に向けられるとは予想もしていませんでした。それだけに、新法が発表されたときには大変なショックを受けました。今年の4月からは、少しでも新法にふれる行為をした学生を各大学が移民局にレポートすることを義務付ける“Student Data Collection Program”又は“Student Tracking Program”という規定ができました。また、今年中に留学生には新たなFeeを課すことも検討されているとか。

 外国に長期滞在する場合に、100%国民と同じ待遇を受けることまで要求するつもりはありませんが、せめて、常に厳しい監視下で生活しているような気分だけは味わいたくないものです。新移民法はアメリカで生活する留学生に、まさにそのような気分を与えており、このままでは更に留学生の減少に拍車をかけることになります。フェアーでフレクシブルなアメリカにあこがれて渡米した元留学生として、政府がこの移民法をみつめなおしてくれることを望むばかりです。

(佐藤奈津)