LATERAL THINKING

「アメリカス」の採用

 吉報である。

 前にも触れたが、現代アメリカ情勢の紹介とその分析では世界的に権威のある英誌THE ECONOMIST が、南北アメリカをひとつの文化圏と捉える見方を取り入れ、それを巻頭記事で紹介するとともに、新たに《The Americas》 というセクションを設けた。

 冷戦後の世界でヨーロッパではEU(欧州連合)が旧ソ連支配地域を含めて拡大しながら結束を強めており、アジアでは香港の中国復帰を機に新しい秩序作りの模索が続けられているとき、南北アメリカが一つになろうとしているとみる見方がでてきたことは、その見方を先取りしていたわれわれアメリカス学会としても心強い限りである。

 同紙がこれを公表したのは、1997年5月17日号で、巻頭記事の見出しはRediscovering the Americas。まずNAFTA(北米自由貿易協定)が順調に進展しており、この地域を南北アメリカに拡大する話し合いを2005年にははじめ、20年後にはアラスカから南米最南端のケープホーンまで自由貿易地域になって世界は「アメリカス」を見直す(rediscover)ことになるだろうと予測している。

 「これはまさに新世界である。新たな宣言をおこない(地勢図を)作りなおすためにもう一人のコロンブスが必要なわけではない。貧富に差はあっても経済的に同じ道程を歩む国々であり、自尊心と自負心をもっている」「その昔のラテンアメリカはアンクルサムの裏庭だったかも知れない(それは多分に誇張された伝説だった)が、いまは全くその気配はない。貧富の差、国力の差はあっても、お互い助け合う隣国同士だ。それが見直されたアメリカスそのものである」と続け、同誌はこれから紙面で次のように扱っていくと述べている。

 「今後ラテンアメリカとカリブ海、カナダを纏めてカバーする《The Americas》というセクションを常設する。従来の

《American Survey》は《United States》と改名する。両者の関係は《Europe》と《Britain》の関係と同じである」と説明し、「アメリカス」には合衆国を含んだ場合と個別に取り上げる場合のあることを示している。そして最後に「これはジャーナリスティックな決め方ではない。自由市場と経済的地域主義に基づく現実と全世界の読者の利益を考えた上のことである」と結んでいる。

 6月24日、米最高裁がインターネット上でのポルノを規制する通信品位法を憲法違反とする判決を出したときには、正直驚かされた。それは社会通念と言論の自由がせめぎあう問題について、最高裁が予想外の早さで明確な判断を下したからではない。

 そのニュースがインターネットを通じてあまりにも早く世界中に流れたからだった。

 日本の朝刊にはまだ掲載されていなかったが、その朝、インターネットの世界では大騒ぎになっていた。判決全文があるというので、それを取り込み、開けようとした「長すぎて開けません」という返事。意味が分からず、友人の助けで、やっと開いてみたら、なんとB5版の普通の原稿で70ページあまりという。米紙 USA TODAYのニュースによると、判決発表後20分以内に、インターネット上の1万2千以上のホームページからこの判決全文が読み取り可能になったという。

 数日後、神戸の少年殺害事件の容疑者として中学生が逮捕されたら、関係のない人物の名前が犯人としてインターネットで流されるという悪戯が起こっていた。

 事実上、制御不可能なインターネットとわれわれはどう共生していけばいいのだろうか。          (北詰洋一)