Letter from New York

日本語?英語?JANGLISH?

 先日、私の担当する日本語コースの一人の学生が、しょんぼりした様子で研究室にやってきました。「この前の授業で雑誌の記事が読めたのが嬉しくて、もっと読んでみようと思ってこれを買ったのですけど、ちんぷんかんぷんなんです。」手にしているのは、流行りのファッション雑誌。開いてみると、「ビビッドなカラーのリバーシブルのバッグは、シンプルだけどもファッショナブル!」という文が目に入りました。車の広告も、「スモールだけど、安全性はとってもビッグ」。日本人にしてみれば、「英語がたくさん入っているのだから、分かりやすいのでは?」という気もするのですが、実際、英語のネイティブ・スピーカーにとって、日本語発音のかたかな英語は何よりもわかりにくいものなのです。その雑誌を読みながら、いかに多くの英単語が日本語として定着しているか、あらためて感心してしまいました。

 かたかな英語で思いついて、どんな日本語の単語が英語の一部になっているか、考えてみました。「腹切り」(1855)、「すし」(1898)、「空手」(1955)などという単語が世界に広く知られていることは有名な話しですが(かっこ内の数字は、その単語が米国の辞書に加えられた年)、他にも、案外たくさんあるのです。最近のビジネス系の学生であれば、「財閥」や「系列」などという単語は常識のうちだし、街に飲みに行けば、あちこちのバーやパブで「カラオケ」(1985)ができて、「神風」(1945)というカクテルを飲むことができます。最近のものでは「交番」。これはまだそんなにいないようですが、ニューヨーク・タイムズの記事によると、米国内のいくつかの都市に実験的に交番が建てられ、実際にその地区の犯罪率が30%以上低下したことから、この先全国に広めようという案があるとか。

 外来語としての日本語の中には、出所があまり知られていない単語もあります。例えば、グループのリーダーという意味の “honcho”。もとの単語は「班長」で、第二次世界大戦中に日本兵が使っていたのをアメリカ兵が真似して、それが定着したのだと言われていますが、この事実はあまり知られておらず、大ボスという意味の英単語だと思っている人が多いようです。だいたい“head honcho”として使われますが“head”にもリーダーの意味がありますから、本当は意味が重複していることになります。

 何度か耳にして面白いと思った単語は、“skosh”。「少し」から来た単語で、 “Just a skosh”というフレーズとして使われます。初めて聞いたときには、私が日本人だから冗談で言っているのかと思ったのですが、他でも使われているので、辞書を見ると、「ほんの少し」という意味のスラングとして紹介されていました。

 海外の情報や商品が手に入り易くなった今日、外来語の普及も速度を増すことでしょうが、それを一番期待しているのは私の日本語コースの学生かもしれません。「こんなに必死で勉強しなくとも、そのうち日本語と英語が混ざりあった言葉(Janglish?)ができるんじゃないでしょうか。」私の答えは、「どうなるにしても、来週のテストまでにそうならないことは確かですよ!」

(佐藤奈津)