Letter from New York

好成績簿確保の知恵

 9月の半ばから新学期が始まり、新しい学生がたくさん入ってきました。受験戦争のない米国では高校の教科が日本ほど厳しくないので、机に向かって何時間も勉強したことのない学生が大勢います。それが、大学に入って急に厳しくなるので、その急激な変化に対応できない人もいます。入学から4年間で卒業するのは全体の50%程度で、あとの学生は途中でやめてしまったり、休学したり、クラスを少なめにとって4年以上かけて卒業したりするわけです。

 このようなシビアな「生き残りゲーム」が繰り広げられるアメリカの大学では、学生への「親切」の定義も違ってきます。「中間試験で60点とってしまったんですけど、このクラス、パスできるでしょうか」といってきた学生に「大丈夫だよ、後半がんばれば!」の一言で済ますのは、「やさしさ」というよりむしろ「無責任」または「無関心」の表れだと見られます。大体、学期のはじめに成績の基準をしっかり発表しておくのが常なので、一部の学生だけに成績の基準を変えることはできません。だから、いっそはっきり「がんばればパスできるかもしれないけど、保証はできませんね。パスしても成績はかなり悪くなるから、それで困るのなら今のうちに落としておいたほうが将来のためかもしれませんよ」と言ってあげた方が親切な場合もあるのです。(普通、70から75点ぐらいがABC評価のCレベルの最低点。60だとDかFになる。)

 アメリカ社会では、G.P.A.(Grade Point Average)という大学の総合成績を0から4.0で表した数値がとても大切です。将来の就職や大学院への進学にも大きく関わってくるものなので、いい成績がとれそうにない場合に、G.P.A.を守るためにそのコースを自分から放棄(drop)するのはめずらしいことではありません。ところが入学したての学生だと、そのシステムをよく理解していないために決められた期日までに手続きができず、悪い成績が残ってしまって後で後悔することもあるのです。それを防ぐために、学期の半ばに、パスするのが難しそうな学生にそれとなくウォーニングを与える教員も少なくありません。

 これはうまく活用すれば便利なシステムでもあります。必須のコースでなければうまくいかなければ途中で放棄することができるのですから、学期の始めに一つか二つのコースを余計に登録しておけばいいのです。そして何回かの授業に出た後で、どのコースをとるのか最終的に決めるのです。

 教員の方も、定員を決めるときにはこのシステムを考慮しなくてはいけません。例えば、私の初級日本語のクラスの定員は25人ですが、最終的に20人ぐらい残ってほしいので、秋学期の始めには30人の学生をとることにしています。もちろん教員やクラスによって、この人数の変化は変わってきますが、いずれにしてもこの登録システムを念頭に定員を調節しなければ、ふと気が付くと学生がほとんどいなくなっていた・・・なんていうことにもなるわけです。

 ちなみに日本語のクラスはテストが多くて厳しいので有名で、9月の登録人数と5月の最終的な人数があまりに違うので、誰かが冗談で(?)言ったことがあります。「アガサ・クリスティーとかけて、初級日本語のクラスと解く。」「その心は?」「そして誰もいなくなった・・・」

                                    (佐藤奈津)