Lateral thinking

タテ縞もようの USA

 アメリカス学会をスタートさせてから、ことあるごとに、南北アメリカを共通の問題として捉えられないかと考えていた。言い換えれば、世界をタテに見る発想である。そんな時手にした新著『アメリカ合衆国テーマ別地図』(1995年、原書房刊)を見ていて、あっと驚いた。この国のいろいろな問題を地図で表してみると、タテ縞もようが非常に多いのである。つまり北緯南緯の緯度で(ヨコに)つながった分布より、東経西経の経度で(タテに)つながった分布の方が圧倒的に多い。

 例えば、人口密度(東西沿岸部のタテに密集)、出生率(中央が高く、東西が低い)、少数人種集団(南半分で、東側が黒人、西側がヒスパニック)、先住アメリカ人は東半分にはほとんどいない、耕地浸食、砂漠化がすすんでいるのは西半分、脳卒中、心臓病、ガンが多いのは東側(緯度に関係ない)・・・。辛うじてヨコ縞模様を形成するのは、大統領選挙などでの投票率で北ほど高く、また拳銃による殺人事件の発生率が南部で平均的に高い。

 しかし、大統領選挙でも、東西に広がりすぎていると問題が出てくる。首都ワシントンとアラスカ州では時差が4時間、つまりアラスカ州の時間は東部より4時間遅れている。東部諸州で投票が締め切られ直ちに開票に入っても、まだ投票が続けられ、極端な場合当選者がほぼ確定した段階でもまだ投票を「無意味に」続けている。しかもアラスカ州の投票率は前回も65%を超え、全米で最高の水準である。アラスカの人々は余程辛抱強く民主主義に従っているということだろう。そうした意味では、アメリカ合衆国のような国でも、その東西の広がりからみると、すでに一つの国を形成、維持していくのは無理が生じてきているといえるかもしれない。

 そういえば、従来の諸国家の歴史をみても、東西の広がりの大きすぎる国は、それ故に不安定、もしくは消滅の運命をたどったといえるかもしれない。その典型はかつての大英帝国だろう。「太陽の沈むことのない植民地帝国」であることを誇りにしてきたが、ヨコのつながりが大きすぎたことが崩壊の一因となっていたのかもしれえない。同じように90年代初頭に自滅したソ連もヨコに長すぎたことが統治の難しさを示したといえるだろう。目下混乱は見えていないが、中国も経済的繁栄の度合いから言えば、東の沿岸地域と内陸部で完全にタテ縞もようになっているようにみえる。

 最近、ある人から、これからの時代は東西の国々のつながりより南北のつながりの方が強くなるのではないかという意見を聞いた。輸送手段や通信手段の急激な発達で地球が小さくなったが、逆に人間が移動する場合、東西間の時差の影響が大きく、南北の「季節の違い」の方が「時差の違い」より人体への影響が小さいからだという。

 調べてみると、1950年代末あたりから時間生物学という学問ができてきて、社会生活の変化で強制的に昼と夜を逆転させられたりすると、人体に無理が生じるというのである。昔のように、一ヶ月以上かかる船旅でアメリカにいくとすれば、時差は徐々に解消でき、問題が生じない。しかしジェット時代で半日余りで地球の裏側に着いてしまい、そこの時間に合わせなければならない時の苦痛は多くの人たちが味わっている。

 千葉喜彦著『からだの中の夜と昼』(中公新書)によると、夜と昼は体の中で自転しており、社会生活により、その習慣を変化させるとさまざまな症候群が現れてくる、しかしそれは温度の変化では影響をあまり受けないという。そういえば、新婚旅行から帰ってきたカップルをみると、オーストラリア組よりハワイ組の方がお疲れに見えるのはひがみだろうか。

(北詰洋一)