Letter from New York

落ち着いてきた日本語ブーム

 アメリカの大学や大学院に留学したものの、いざ学位をとる段階になって就職先を検討し始めてみると、あっちもこっちも就職難。最近の留学生には尽きない悩みです。日本の経済成長に伴って起こった日本語ブームで急速に増えた日本語講師の需要も満たされた今、アメリカでの日本語の世界にも変化がおきつつあります。

 80年代の日本の好景気の影響でアメリカ人の日本に対する興味が急激に高まり、80年代後期には大学の日本語コースの学生の登録数はピークを迎えました。以前は日本の文化、歴史、文学などに興味のある学生を中心に編成されていた日本語のクラスに、ビジネス系の学生や企業就職希望の学生が加わり、日本語コースのセクションを増やしたり新しいクラスを設けた大学が数多くありました。大学だけでなく、あちこちの高校でも日本語のクラスができ、日本語講師の需要が倍増したのは言うまでもありません。ところが、日本語教授法を専攻できる大学は数少なく、小さいプログラムだと実際に日本語を教えた経験のある講師を集めるのもたやすくなく、在米の日本人の主婦や留学中の日本人学生が家事や自分の授業の合間に日本語を教えていたケースもめずらしくありません。

 ところが、日本の経済が伸び悩みを始めるや否や日本語ブームに乗っていただけの学生が減って、日本語教室は以前のような「落ち着き」を取り戻しました。勿論、これはすでに仕事のある日本語講師の見解であって、これからの就職希望者にしては単なるメbad marketモ、つまり「就職難」になったというわけです。具体的な例を挙げると、AAS(Associations for Asian Studies という米国のアジア研究学会)の出すニューズレターの教職員募集の欄の過去3年間の修士課程修了者を対象とした日本語講師のポジションの数をみると、3年間に半分以下に減っていることがわかります。最近の情報交換の場が、印刷物からコンピューターを通じてのネットワークに移りつつあるというのも見逃せない点でしょうが、それにしても実際に日本語講師への道が「狭き門」になっているのも事実。

 最近、ビンガムトン大学でも日本語講師を募集することになり、電子メールのネットワークに広告を出すことにしました。非常勤のポジションで、応募者の有無を心配していたにもかかわらず、2週間のうちに40人前後の申し込み、問い合わせがあって、やはり最近の情報伝達のスピードと就職難のたまものかと感心してしまいました。

 日本語講師の仕事の空きが減ったからといって、アメリカの日本語の世界が崩壊寸前というわけではなく、むしろ、需要を満たされて落ち着いてきたと言えるでしょう。日本語講師の条件が日本語のネイティブスピーカーであることのみという学校がほとんどなくなって、言語学や教育学、日本語教育法の修士や博士号を持つ講師を中心に全米の大学で日本語が教えられています。

 インターネットなどを通じて日本社会についての情報入手が楽になったぶんだけ、日本語教員は日本語の知識だけでなく、マルチメディアを使った教材の導入、 メAuthentic materialsモと言われる教材の応用を含む、より質の高いティーチングが要求されるようになりました。現役の講師にもプレッシャーは尽きませんが、それだけやり甲斐のある仕事だと言えるかもしれません。      

(佐藤奈津)