Birdユs-eyes view

「最初のアメリカ人」はモンゴロイド

 カナダのワールド・サット・インターナショナル社は、1990年、地上520マイルの気象衛星を使い、十カ月にわたって地球を撮影、雲のないカラーの地球全図を始めて作成、出版した。手許にあるこのゲオスフィヤーイメージ図は、アフリカ大陸がほぼ中央に置かれ、左半分が南北アメリカ大陸、左方上辺にはアリューシャン列島がみられる。海洋は濃紺色で、緑地帯、砂漠地帯、ツンドラ地帯も容易に識別できる。雪で覆われた南北極地域や大山脈は当然白色であり、わが惑星地球の地勢的環境が平面でかつ立体的に一べつできるようにつくられている。

 南北アメリカ大陸の太平洋に面する西側縁辺部の景観は、きわめて男性的で、ロッキー山脈やアンデス山脈が、大陸中央部を太平洋から敢然と遮断する白い衝立のようにみえる。また一方、大西洋に面する東部は、メキシコ湾とカリブ海を奥にひかえ、西アフリカ大陸の砂漠地帯を大きく飲み込むかのように見える。つまり、南北アメリカ大陸は、東西において共通する景観を有していて、じいっと眺めていると、あたかもこれらの大陸がある種の意志をもって、その存在を主張しているかのようだ。それは西部が男性的、東部が女性的よそおいをもって創生されたかのような風水的直感を与える。

 大西洋に沿う南北アメリカ大陸には、ラブラドル高原、ギアナ高原、ブラジル高原が分布している。東側の共通項は従って母性的な大地としての高原である。これらの高原は、古生代以前の古い岩石と地層からなっており、東から内陸に向かって低くなっていく。一方、西側大陸縁辺部の大山脈は、主として中生代から新生代にかけての新しい地質時代の岩石と地層から成り立っているから、いまでも地殻変動や火山活動は活発で、それらがほとんど見られない東部の受動的高原地帯に比べて、極めて男性的な景観を有していると言えよう。人類のさまざまな文化は、地勢がおりなす自然との関わりで発生するとすれば、こういった南北アメリカ大陸がもつ共通的風土や景観から文化を考えてみるのも無意味ではないだろう。

 一万五千年前、地球の最も寒冷な時期に、人類ははじめて北緯60度をこえて、東シベリアからアラスカへの進出を果たした。あえてなぜ極地の地を目指したのかはいまだになぞとされている。しかし、その極寒の自然環境を知恵をもって生き延び、ベリンジャをこえ、アメリカ大陸を南下縦断したのがモンゴロイドであった。つまり、「最初のアメリカ人」は、私たちの先祖であるモンゴロイドであったというわけだ(大貫良夫)。このことは形質人類学も明らかにしている。陸地をつたって北上、南下したばかりではない。モンゴロイドは南太平洋にも乗り出し海洋世界への適応戦略をつくりあげることにも成功した。それは、ヨーロッパ人による大航海時代のはるか前のことであった。アメリカ両大陸へのモンゴロイド・ポリネシア人航海者たちの先史時代の考古学的研究は、ベリンジャをこえて陸づたいに南下したモンゴロイドのアメリカ大陸史研究と共に、私たちのロマンをかきたててくれる。それはいにしえにおいて、南北アメリカはもともとモンゴロイドのもとに一つであったと、私たちのはるかなる先祖の魂が、呼びかけているからかもしれない。

                                (井上 昭夫)