Americanism

アメリカ英語に生じた語義の変化

 米語の語彙を歴史的に見た場合に注目される点として、以前紹介した語彙の増大のほかに、語義の変化がある。米国という環境の中でそれまでの語が新しい意味を持つようになった例は多数あり、そのいくつかを若田部(1985)から紹介する。

 (1)動植物 @buffalo「アメリカ野牛」:この語はアフリカやアジアの水牛類をさして用いられてきたが、米国では正しくはAmerican bisonまたはBison bisonと呼ばれる動物に通俗的にあてはめられた。Acorn「トウモロコシ」:米国植民者は「トウモロコシ」を表す語として以前から英語に入っていたmaizeを余り用いず、「穀物」、「小麦」、「ライ麦」などをさして用いられていたcornを用いるようになった。(2)住居・建物 barn「(納屋を兼ねた)畜舎」:英国では「納屋」はbarn、「畜舎」はstableと区別されているが、米国では両方を兼ねた意味で用いられるようになった。一つの建物で両方を兼ねることが米国では多いからである。他に、aisle「(一般的に)通路」、cottage「別荘」などがある。(3)飲食物、服装品、日常用具 candy:この語は、英国では「氷砂糖」をさすが、米国ではbon bon、caramel、chocolate、toffeeなど「(一般的に)砂糖菓子」をさす。他に、biscuit「小型の白パン」、bureau「衣服だんす」、cereal「(朝食用の)穀類加工食品」、derby「山高帽」、eraser「消しゴム」、gun「ピストル」、pants「ズボン」、record「音盤」など。(4)商業・通信 store「店」:初期の米国では物資流通の便に恵まれず、商店は倉庫を兼ねなければならなかったため、「倉庫」を意味するstoreが「商店」の意味で用いられるようになった。他に、bakery「パン屋」、collect (on delivery)「受取人払いで」、grocery「食料品店」、saloon「(婉曲語句として)酒場」など。(5)教育、学校生活 @A, B, C, D, E, F:これらを学習成績を示す評語として用いることは、アメリカで19世紀後半に始められた。Acollege:英国OxfordやCambridgeでは「学寮」(1種の自治組織)をさすが、米国では「(大学の)学部」「単科大学」をさすようになり、さらに一般的に「大学」の意で日常用いられるようになった。Bfraternity, sorority:fraternityは「友愛」というような意味から発展して「友愛(同人)会」、「信徒団体」というような組織をもさすようになったのであるが、米国では男子大学生が加入する社交的組織をさすようになった。sororityは女子大生のための同様な組織をさす。他に、elective「選択科目」、recess「休み時間」、quiz「小テスト」、grind「ガリ勉学生」、register「入学の登録をする」、credit「単位」、major「専攻科目(学生)、専攻する」、minor「副専攻科目」などがある。(6)政治、法 @dark horse:「予想されなかった勝ち馬(勝利者)」の意で用いられてきた語であるが、米国で選挙に関して「予想以上に有力な候補者」の意で用いられるようになった。A Dictionary of Americanismによると初出年は1865年である。Ajunket:「宴会」とか「ピクニック」(outing)をさす語であるが、米国ではすべてを公費にたよるという批判をこめて公務員の旅行をさして「(やや軽蔑的に)公費旅行」の意で用いられるようになった。他に、capitol「議事堂」、convention「政党大会」、Senate「上院」、poll(s)「投票場」、run「立候補する」、rally「政治集会」、primary「予備選挙」などがある。(7)その他 frontier「辺境」、pioneer「(辺境の)開拓者」、vacation「(一般的に)休暇」など。

                                    (岩田良治)