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 【生涯学習】

《公開講座記録》【ことばと文学】ことばが変化するわけ —方言からみえる変化の実態とその要因—

第3回 ●平成29年5月27日(土) 午後1:30
テーマ ●ことばが変化するわけ —方言からみえる変化の実態とその要因—
          ●講師  鳥谷 善史  国文学国語学科非常勤講師

内容

「ら抜きことば」を事例として、ことばが変化する際の実際の様子とその要因について方言調査の結果や国語学や方言学、社会言語学における研究成果の知見を踏まえながら以下の内容を講演した。

1. 「ら抜きことば」への社会の評価と最新の調査結果
平成7(1995)年国語審議会では「ら抜き言葉は認めない」と評価されていた。具体的には「文章を書くときはふさわしくない。」「話し言葉としては許されるわけではないが、受け入れられる。」というものであった。ただ、このように社会がその変化を認めようとしなくても、ことばは常に変化をし続ける。最新の文化庁の「平成27(2015)年度「国語に関する世論調査」の結果の概要」では、「ら抜きことば」の「「見れた」(48.4%)が「見られた」(44.6%)を,「出れる?」(45.1%)が「出られる?」(44.3%)を,今回の調査において初めて上回」ったという。ことばの変化には、必然性や合理性がある場合が多く、言語変化は着実に進行する。

2. 「ら抜きことば」とは:現象の分析
「学校文法」の枠組みを使って「ら抜きことば」について確認した。学校文法の動詞の活用には、五段・上一段・下一段・カ行変格・サ行変格の五種類があるが、その中でも上一段・下一段・カ行変格において、「可能」の意味の際に「ら」を抜いて発話される現象である。非ら抜き形(規範形)には、受身・尊敬・自発・可能の四つの意味があったが、「ら抜きことば」発生後は、可能が抜け、三つになり、「ら抜きことば」は、可能の意味だけを担うことになる。これは、本来一つの形式に、四つの意味があったものが減少し、可能専用の形式ができることになり、「意味の明晰化」への変化である。また、五段動詞やサ変動詞には、可能の意味には別の形式(「書ける」「できる」)が存在していたことから、全ての動詞の活用で同じ体系を獲得することになり、「動詞活用体系の整合性」という方向への変化でもある。さらに、発話の際に「ら」を1拍分省略することから「省力化」も担っている。

3. 「ら抜きことば」発生の通時的(≒歴史的)側面
古典文法の動詞の活用は中古(平安時代)に9種類あったが、現代では5種類まで減少している。動詞活用の種類は減少傾向にある。実は、この減少の流れの中にあるのが「ら抜きことば」である。具体的には、『方言文法全国地図(GAJ) 』の調査結果をみると九州地方や・近畿地方南部・東海地方に上下一段動詞を五段動詞のように活用する方言が存在する。上一段動詞「見る」では、未然形で規範的には「ミン」であるべきが「ミラン」また、命令形では「ミロ」であるべきであるが「ミレ」と発話されている。これらの現象を「一段動詞のラ行五段化現象」と呼ぶのであるが、これは、所属語彙が多く、生産性の高いラ行五段動詞に一段動詞が引っ張られる形で発話されているのである。つまり、動詞の活用が減少する方向として、遠い未来において、一段動詞も五段動詞のようになる可能性を示唆している。

4. 「ら抜きことば」進行の遅速の地域差の要因:共時的側面
四国 北陸 中国 北海道・中部 九州 東北 近畿 関東
40.5 38.6 37.5 32.6 28.5 26.8 20.8 16.7
『平成13年度 国語に関する世論調査』の「こんなにたくさん食べられない/食べれない(地域ブロック別)」の調査結果は、表のとおりである。この調査結果からその進行の遅速の要因として、進行の遅い、関東・近畿に注目すると、それらの地域が旧首都であったり首都を含む地域であるという共通の要素がある。このことから変化を遅らせる要因として「規範意識の高さ」が考えられるが、「3.」で見た「ラ行五段化」という側面からは、九州や東北の変化の遅さが説明できない。ただ、これに関しては、言語変化の要因としては、言語そのものが合理的方向に変化しようとする「言語内の要因」と言語以外のそれを使う人間の心性などの「言語外の要因」が複雑に絡み合いながら変化に影響を及ぼしていることがわかっている。そこで、九州や東北には、変化を遅らせる「言語内の要因」が存在するのではないかと考え、再度方言分布を確認すると「可能」の意味には「能力可能」と「状況可能」といった下位分類があり、地域によりその形式が異なることがわかった。具体的には、東北地方日本海側では能力可能では「キレル」であるが、状況可能では「キラレル」という形式で使い分けている。「キラレル」の「ラ」が抜けると意味の使い分けができなくなるため結果的に「ら抜きことば」の進行が遅れたことがわかる。九州でも同様の事例が存在する。このことから、言語変化を遅らせる「言語内の要因」として「可能形式の使い分け」があったことが確認できる。これらのことから、ら抜きの進行を遅らせる言語外の要因としては「規範意識の高さ」が一番強く働いていることが確認できる。

5. 言語変化のメカニズム(誰がことばを変化させるのか?:年齢差と性差)
70代 60代 50代 40代 30代 20代 10代
男性 62.5 60.0 66.7 71.4 81.8 84.8 88.8
女性 30.8 37.5 42.1 63.2 80.9 90.5 94.0
井上文子(1991)の調査結果「大阪市内「生え抜き」の「起きれる」の使用率」の表を詳細に確認すると、言語変化(「ら抜きことば」)を引き起こした属性が、男性であることがわかる。その根拠は、男性の使用率が全体的に高く、徐々に増加しているからである。また、若い女性が急激に使用率を増加させたのは、「ら抜きことば」を新しい規範形と感じたからである。男女差としては、個人差はあるものの、概して女性の方が言語感覚に優れ、保守的である。そのため、若い女性たちは、自身の周囲で多く使われ始めた「ら抜きことば」を規範的に感じ始めたのである。

6. 「ら抜きことば」使用上の注意
前章でも確認したが、新しい言語変化の場合、年齢が下がるにつれその使用率は上がり、年齢が上がるにつれ使用率は下がる。ただ、これまで見てきたように「ら抜きことば」は言語変化として極めて合理的な変化である。また、歴史的必然性を帯びている。だからといって、今すぐその使用を心がけるべきではない。世代差があることをしっかりと理解し、その形式を状況によって使い分けるべきであろう。不適切な場所や場面として、話しことばとしては、採用面接、会議など。また、書き言葉としは、論文、履歴書、仕事上の顧客との遣り取りのメールなどの公的場面があげられよう。また、問題なく使える状況としては、友人や家族との日常会話及びメールやツイッター、Lineなど、ソシアルネットワークサービスの私的な書きことばでは、まったく問題がないであろう。長寿社会ゆえ、規範性を大切にし、「ことばの乱れ」と感じている方々も多くおられることを認識しておくべきである。
なお、『枕草子』186段や『方丈記』22段にも、新しい言葉遣いや表現への恨み言が記されている。

参考文献
井上史雄(1998)『日本語ウォッチング』岩波新書
井上文子(1991)「男女の違いから見たことばの世代差」『月刊日本語』4-6
真田信治編(2006)『社会言語学の展望』くろしお出版
渋谷勝己(2002) 「可能」『方言文法調査ガイドブック』大西拓一郎編
竹田晃子(2006)「読むことができる〔能力可能・状況可能〕」『月刊言語』35-12,大修館書店
竹田晃子(2007)「可能形式の使い分けと分布」『日本語学』26-11,明治書院
松丸真大(2006)「見ない,見ろ」『月刊言語』35-12,大修館書店


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