天理大学

  1. HOME
  2. ニュース・トピックス
  3. 《公開講座記録》【ことばと文学】絵で読む江戸時代の大和—『大和名所図会』の世界—
 【生涯学習】

《公開講座記録》【ことばと文学】絵で読む江戸時代の大和—『大和名所図会』の世界—

第1回 ●平成29年5月13日(土) 午後1:30
テーマ ●絵で読む江戸時代の大和—『大和名所図会』の世界—
          ●講師  西野 由紀  国文学国語学科准教授

内容

 江戸時代後期に流行した書物に、「名所図会」の名をもつ地誌群があります。安永九(一七八〇)刊の『都名所図会』を嚆矢として、以後、各地をとりあげた「名所図会」が多数に出版されました。一連の書物のうち、寛政三(一七九一)年に出版された『大和名所図会』はシリーズの三作目にあたります。ただし、天明七(一七八七)年刊の『拾遺都名所図会』が『都名所図会』の続編に位置づけられていることから、実質的には『大和名所図会』がシリーズの二作目にあたるといえるでしょう。では、先行する『都名所図会』ならびに『拾遺都名所図会』に対して、『大和名所図会』にはどのような特徴があるのでしょうか。

ところで、『大和名所図会』のあとがきにあたる「跋文」には、『廣大和名勝志』編纂の途中で亡くなった植村禹言の遺志を引き継ぐかたちで、その草稿にくわえ『大和志』『和州旧跡幽考』などの既存の地誌の情報を加味しつつ、本文を執筆したのだと記しています。一方で、挿絵には『都名所図会』ならびに『拾遺都名所図会』にはなかった素材が描かれています。そもそも「名所」とは「などころ」であり、古歌に詠まれた歌枕の地をさすことばです。そのため、「名所図会」の挿絵は神社仏閣などを描く鳥瞰図が大半を占め、そこに祭礼行事を描く歳時図や当世の風俗を描く風俗図が挿入された構成となっています。『大和名所図会』にはこれらの挿絵以外に、和歌に詠まれた風景や説話、伝説、物語などに取材した故事説話図がくわえられています。この故事説話図は『都名所図会』ならびに『拾遺都名所図会』にはみることができない挿絵なのです。以上のことをふまえると、『大和名所図会』の独自性は挿絵(とくに故事説話図)にあるといえます。

たとえば、春日野付近をとりあげた項目をみると、茶屋で休憩する客たちが鹿にせんべいをあたえているようすを描く風俗図があります。これは今日のわたしたちが抱く奈良のイメージにちかいといえるでしょう。ところが、おなじ春日野付近でも『伊勢物語』初段の垣間見のシーンを題材とする故事説話図もあり、その背景には物語のストーリーとは関係のない鹿のすがたが描きこまれています。つまり、物語の舞台とその土地を代表的する風物とを結びつけるような演出がなされているのです。

また、鎌倉時代の仏教史書『元亨釈書』や卜部兼好『徒然草』などに登場する久米仙人の説話を題材とする故事説話図が収載されていて、川中で足もあらわに芋を洗う若い女性のすがたを、雲に乗る久米仙人が空から眺めているシーンが描かれています。じつは久米仙人の伝説では女性が洗っているのは「衣」や「もの」と記されているのですが、なぜかこの挿絵では芋を洗っているのです。これは久米仙人の説話の舞台とその地名とを結びつけるための演出で、「妹(いも)が洗う」場所は「芋洗の芝(地名)」であるという地口による連想を読者に伝えているのです。

ほかにも、桃尾の瀧のあたりに居住していたという僧正遍昭の母にまつわるエピソードや、『義経記』や『義経千本桜』で知られる吉野の勝手神社社前で静御前が舞を奉納するシーンを描く挿絵などがあり、古典文学の作品に登場する大和のイメージをひろく読者に伝える役割を担っていました。

このように、大和の地で生みだされた和歌や説話、伝説、物語を図像化している点に、『大和名所図会』の独自性をみいだすことができるのだといえます。


クラブ・サークル

広報誌『はばたき』

シラバスを見る

動画で見る天理大学

情報ライブラリー

学術情報リポジトリ

iCAFé_

附属天理図書館

附属天理参考館

災害復興支援について

天理大学の自己点検・評価活動

寄付のご案内

このページの先頭へ