Lateral Thinking

 

渡り鳥も「アメリカスの知恵」?

 最近、ある研究発表会で、21世紀の世界のグループ群は20世紀と違って縦長(南北に長い)になるのではないかという仮説を出してみた。すると同僚の先生から「渡り鳥の飛行地図をみると面白いですよ」というアドバイスをもらい、渡り鳥の地図を見せていただいた。

 それをみて思わずへぇと思った。地球儀上に表された曲線だが、ほとんどが南北に伸びたもので、その長さが長いのにも仰天した。早速、「鳥の渡り」を調べてみた。ちょっと横道にそれるが、その一部を紹介してみよう。

 ─日本でわれわれのみる鳥の種類は約600種。その中の何らかの「渡り」をするのは500種類、つまりほとんどは「渡り鳥」なのだ。それも夏にやって来る夏鳥(ツバメ、オオルリ)、冬にやってくる冬鳥(ガン、カモ、ハクチョウ、ツル)、旅の途中にちょっと寄る旅鳥(シギ、チドリ)、間違って来てしまう迷鳥。渡りをしないのは留鳥というそうである。

 ─アメリカス(南北アメリカ)大陸を「渡る」鳥の主なものをあげてみると、北米西部で繁殖し秋にパナマ地峡を通ってアルゼンチンで越冬するアレチノスリ、北米の北極圏一帯で繁殖し、南米で越冬するヒレアシトウネン、北極圏一体で繁殖し、冬は南米で過ごすコオバシキ、北米の針葉樹林で繁殖し、南米で越冬するズグロアメリカムシクイ。圧巻は北極圏の繁殖地を巣立ったあと、アメリカス大陸の東岸沿いに数ヶ月かけて、なんと1万8000キロを飛んで南極圏にいくキョクアジサシ。まさに「渡り鳥の横綱」だろう。

 ─その他変わった特徴をあげると、よく知られている同じ場所に戻ってくる帰趨本能、太陽ばかりか夜は星座を頼りに方向を見定めるといわれる習性、雄が先に飛んで巣作りをし雌と幼鳥が後から行く「マイホーム」型。成鳥は海上を長期間飛ぶのに対し、幼鳥は何度も休めるようにその海上に沿った沿岸地上空を追いかける習性。まことに不思議な「渡り鳥」の生態である。

 ただ常識的に考えれば、温度の寒暖の差を避けるために南北二つの巣をもつことはそれほど驚くべきことではない。しかしそれだけの理由であれば、なぜ赤道を越えてそんなに長距離をとばなければならないのか。もし餌を求めて「渡り」をするのであれば、東西間を飛ぶ渡り鳥がもう少しあっても良さそうなものである。とくに長距離を飛ぶために、鳥はそのエネルギーをどうしているのか。「渡り」をはじめる前に、鳥たちは脂肪を大量に体内に蓄える。ある解説書によると、長距離の渡り鳥は、渡りの時に平均30%脂肪量を増やすそうである。それをジャンボジェットに比較すると、ジャンボジェットの重量と燃料の重量の割合と、長距離渡り鳥の体重と脂肪の重量の割合がほぼ同じだという。ジャンボジェットの開発時に渡り鳥の脂肪の量を調べたかどうかわからないが、自然の驚異の大半は今なお謎だらけのようである。

 とくに渡り鳥に注目したのは、解説書(『朝日百科 動物たちの地球 鳥類II』)の中にあった次の一節である。

 「翼で空中を自由に飛行する能力を持つ鳥類は、この地球上でもっとも運動性に富む動物といわれる」。中でも「渡り鳥」がもっとも運動性が富んでいる、言い換えれば動物の中で最も生命力が強いことになる。その理由は、渡り鳥は地球上を東西に長時間飛ぶという自然の生態系に無理をしていないからであるといえないだろうか。

 人間を含めて、地球上の動物は東西ではなく、南北に移動するのが無理をしない生き方だということだ!?

   (北詰洋一)