Feminism Now

もとフェミニストリーダーの告白

 私はこの夏、天理大学英米学科2年次生31名を引率して、カナダと米国へ文化実習に出かけた。3週間にわたって、カナダ・サスカチュワン州の州都リジャイナにあるリジャイナ大学ESLセンターで英語集中プログラムを消化し、その後9日間の予定でニューヨーク、ワシントンDC、オーランドを研修旅行した。7月下旬、ミネアポリスからニューヨークへ向かうノースウエスト航空の機内でアイオワ州のある私立大学の女性副学長と隣り合わせになった。ご主人と2人の娘さんを伴って家族旅行の最中だという。約2時間その女性副学長といろんな話をした中で特に印象に残っているのは、最近の米国におけるフェミニズム運動の低迷現象である。

 彼女も大学院を修了した70年代中頃は、積極的にフェミニズム運動に参加して女性のより一層の権利獲得のために仲間のフェミニストリーダーたちと奮闘したという。しかし、80年代に入って多くのフェミニストが第一線から退き、結婚して家庭を持ち始めた。彼女はフェミニズム運動のリーダーは退いたものの私立大学の事務官の職を得た後も活動は続け、同じ大学で歴史の教鞭をとっていた現在のご主人と出会い、結婚した。フェミニズム運動に理解のあるご主人であったので、結婚後もしばらくは大学の職と女性運動を両立させた。

 機内での私たちの話題が女性運動と家庭に転じたところで、私が、「フェミニストのリーダーが何故結婚されたのですか、ルール違反でしょ?」と少々意地悪な質問をした。すると彼女は、「真のフェミニストは結婚を否定する女性が多いので、私も主人と素敵な出会いをしたものの結婚すべきかどうか随分悩みました。主人がたまたま運動を続けてもいいと鼓舞してくれたので、思い切って結婚しました」

「ご主人がいつも家事を手伝ってくださったわけですね?」と小生が尋ねると、

「とんでもありません。運動で私が外泊したとき主人はいつも外食、私が家庭にいる時は、私が頼まない限り絶対に食事の後片付けや掃除を手伝ってくれませんでした。アメリカ人亭主は共稼ぎの場合でも大抵はあまり家事を手伝わないんです。あなたは大家族だからよく手伝うんでしょ?」

「実は私も家内から頼まれない限り、家事を手伝いません。8人家族の亭主としては失格です。食料の買い出しだけは量が多いので時々一緒に行きます。中年以上の日本人男性はおおむね働き過ぎで家庭のことにあまり時間をさいていません」

 この女性副学長は、結婚後も大学の職務と女性運動で忙殺され子供は授からなかったが、結婚10年後に女性運動から完全に退き韓国人の赤ちゃんを養女として迎えた。家庭の味を覚えるともう運動には戻れなかったという。彼女のようにかってはアクティブなフェミニストでありながら、結婚して家庭をもち子供を授かったアメリカ人女性が急増しているという。

 今日のアメリカでは、法的男女平等や教育の機会均等が確立され、女性の社会・職場進出はますます拡大し、性の解放の背後で結婚しないシングルマザーが定着して久しい。夏期には制服の短パンを着用した女性の郵便配達員や公共バスドライバーの姿が、全米のどこでも見受けられる。今回の研修旅行でもニューヨーク市で多くの女性タクシー運転手を目撃し、ああ頑張ってるなあと感服した。しかし一方では、フェミニズム運動に反旗を翻す「バックラッシュ」現象も出現した。

   (木下民生)