Letter from New York

 育児休暇あれこれ

 

私事ですが、12月に長女が誕生しました。去年の秋学期が始まったころのことです。勤務している大学の産休の制度について聞くために担当のオフィスに電話をかけたところ、逆に「産休はどうするもり?」と聞かれて戸惑ってしまいました。個人主義で、何事にも選択肢の多いアメリカ社会ではありますが、産休のシステムにまでチョイスがあるとは思っていなかったのです。「しっかり職員のハンドブックを読んで、自分のライフスタイルに合った産休のタイプを選ぶように」と言われ、勉強不足を反省しながら、一旦電話を切りました。

ハミルトン大学のハンドブックの産休の欄を見ると、確かにいくつもの休暇のパターンが記されています。(1)フルタイムの職員は8週間の有給休暇がとれ、その後の一学期間も担当講義数を普段の3分の2に減らすことができる(その場合は給料の100%が支給される)、(2)丸一学期間の産休を希望する場合は、給料の50%が支給される、更に、(3)希望すれば一学期間の無給休暇の追加が許可される、などです。数ページに渡る項目に目を通し、驚いたのは、男性職員が利用できる休暇のあること。一番よくあるケースは一学期間の無給休暇ですが、母親が病気などの理由で父親が子供の世話をする primary care-taker になる場合は、子供を産む職員と全く同じ条件で休暇をとることができるのです。女性の産休をマタニティー・リーブ (maternity leave) と言うのに対し、男性の場合はパタニティー・リーブ (paternity leave) と言いますが、最近では、男女差別を避けるためにparental leave という単語に統一する機関も多いとか。いわゆる「育児休暇」ですが、この休暇の目的は生まれてきた子供100%のケアを受けられるようにすることなので、世話をする者が性別に関係なく利用できて当然という考え方でしょう。

更に、同じ理由で、子供をひきとる場合にも、育児休暇をとることができます。アメリカでは年間に10万人以上の子供が養子・養女として新しい家庭に迎え入れられます。法的な手続きを経て家族の一員になる子供は、実の子供と同じ権利を有するという考えから、雇い主は、受け入れ家庭の一員である職員に育児休暇を許可することを義務づけられています。休暇の日数は、受け入れる子供の年齢によって異なりますが、2才以下の乳幼児の場合は、新生児と同じ扱いになります。

育児休暇を奨励する法律は60年代にできたものですが、項目の一つに「本人が希望しない限り職員に産休を強いることを禁じる」というのがあります。人々を、育児を理由にした理不尽な解雇や昇進への妨害から守るだけでなく、彼等/彼女等の働く権利を尊重しているのです。

勤務先の大学の育児休暇の制度を例にあげましたが、法律で定められているのはやはり必要最小限の休暇であり、どこの大学・会社でもこれと同じというわけにはいきません。特に小企業の場合、社員が長期休暇をとると企業成績への影響も大きいということで、あらゆる規定が緩和されます。しかし、サポートのレベルに違いはあっても、父親や里親が母親と同じ育児休暇をとる権利があるという点は統一されており、「子供の安全と健康が第一」という政府のポリシーが窺われます。

私はハンドブックを熟読し、数人の同僚と相談した結果、私も自分に合った育児休暇を決めました。前記の「働ける限り働く権利」をフルに利用し、休暇の期間は「子供が生まれた日から8週間」。実際に生まれる日まで大学で教えましたが、こちらではこれがごく普通のことのようです。こんなことを言うと、アメリカにはタフなキャリア人間が多いようですが、実際には、子供のいる女性(男性も)が働きやすい環境があって、初めて可能なことだと強く感じました。8週間の休暇を終え、2月に職場復帰しましたが、現在は夫が育児休暇をとり「専業主夫」をしています。この先どうしていくかは、周りのキャリアparents を観察、研究していく予定です。

(佐藤奈津)