Monologue in New York

アメリカ人って何?

 最近、わが社のArt Department に新人時計デザイナーが加わった。彼はイタリア系アメリカ人である。これでわが部もますます国際色豊かになってきた。ユダヤ系(2人)、メキシコ系、台湾系、日系(私)とさまざまなバックグラウンドを背負った6人がチームを構成している。

ニューヨークの人口の4分の1は外国生まれである。その上、外国出身者の2世をあわせれば、ほとんどの人間が、一口にアメリカ人といっても、異文化を身につけている。一体何がアメリカ人なのかさっぱりわからない。

Art Departmentの6人のうちユダヤ系であるボスのハロルドを除いては全員が母語と英語の2カ国語を話す。生まれ、育ちはアメリカでも家庭では両親とは母語で、兄弟とは英語でということが多い。

この会社Fadaではユダヤ系の社員が多いことから、アメリカの国民の祝日National Holidayのほかに、ユダヤ教の祝日Jewish Holidayも休みをとることにしている。金曜日には日が暮れてから働いてはいけないということで、4時30分には会社を閉めてしまう。その他包装手作業の要員として中国系も多いことからChinese New Yearには中国系は休んでもよろしいというはからいもある。多くの人は私のことを中国系と思っているようで、会う人ごとに「あれ、今日はどうしてここにいるの?」と聞かれたものだ。

同僚とは昼食をともにすることが多いので、食生活を通じて、いろんな文化が見えてきて大変興味深い。赤ちゃんの頃イスラエルからきたユダヤ系のレビは宗教的な理由から、口にするものがきわめて限られている。ユダヤ式の食べ物はKosherといって、すべてがユダヤ仕様でなければならない。彼女は多勢でレストランへいっても、注文するのはコーラだけで、持参のKosher bread をパクつく。牛乳、ポテトチップ、ガム、すべてのものがKosherの蛯烽オくはオーソドックスののマークがついていないと駄目。ニューヨークはユダヤ人が多いので乳製品には必ず蛯フマークがついている。

まず豚肉は駄目。チキンや牛肉でもユダヤ式で差配した食肉でなければいけない。まことにご苦労な話である。旅行中はどうするのときくと「そう、ヨーロッパ旅行したときは県ケ困ったわ」とのこと。わが社ではバースデーパーティなど小さな集まりの際も、食事はkosher でないと、社長の機嫌が悪いので気を遣う。しかし同じユダヤ人でも戒律を厳しく守っている人とそうでない人の二通りいて、ハロルドなどは、とくに気にせずふつうの食生活を楽しんでいるようだ。

台湾から15歳で移民してきたテリーサの場合、やはり食べ物は中華料理や日本食が多く、同じアジア出身ということもあり、私とは話も合うし、食べ物の好みもよく合う。西洋人がこわがる「目玉のついたサカナ」ちりめんじゃこも「おいしいのにねえ」といってくれるのがうれしい。その彼女もさすがに私のナットウ弁当だけは「な、なんなのその臭いは」と、やや驚きの様子をかくせないようであったが。

おいしいタコスのことはメキシコ系のユーリーンにきき、パスタのゆで方はイタリア系のサルにきく。万国博覧会のような毎日である。

これだけ違うものを食べ、違った考え方をし、肌の色の違う人々が英語という共通語を媒介とし、一つの国としてやっている。

この国の力強さ、層の厚さ、雑種の強み。アメリカという国の面白さを実感する毎日である。

(布川栄美)