Lateral Thinking

米国でスペイン語ブーム

米国の出版界はいま、これまでにないほどのスペイン語ブームだという。もちろんヒスパニック系の移民増が主たる原因だが、同時に米国人全体のラテンアメリカに対する関心の高まりがブームに拍車をかけているのだろう。

世界中の書籍著作権の大手代理店として評価されている日本ユニ・エージェンシー社の情報によると、米国では現在、毎年65万人以上の大学生がスペイン語の講座をとり、スペイン語を外国語として教えている小・中・高校の数は1,000校を越えているという。数が多いのはヒスパニックが多いカリフォルニア、ニューヨーク、フロリダ、テキサス、ニューメキシコで、もはやバイリンガル教育は常識となっているようだ。

これだけスペイン語ブームになると、大手出版社も放っておく訳がない。同社の情報によると、これまで中小の出版社はプエルトリコ系相手に細々とスペイン語書を出していたが、今年に入ってニューヨークの大手出版社ランダムハウスが名乗りを上げ、ベストセラー作家スティーブン・キングの六作品のスペイン語版を子会社(プラザ・イ・ハネス)に出させる予定である。またハーパコリンズ社はフィクション、ノンフクションの出版を企画しており、ハーレクイン社では例のロマンス・シリーズを2001年に一挙に八点刊行を予定している。

こうなると、メキシコの出版社も黙っているはずがない。オセアノ社は、いまや世界的なベストセラーになっているハリー・ポッターのスペイン語版を刊行、自国だけではなくそれを米国に逆輸出しようというのだから、時代は変わったものである。

ただし英語の書籍のラテン進出は今ひとつとか・・・。

 

一級資料と現地調査

 

アメリカス学会に強力なご支援をいただいている猿谷要氏(東京女子大学名誉教授)がこのほど新著『遙かなアメリカ―ある歴史家の回想―』(2000年、実業之日本社)を出版された。

特攻隊を志願した青年将校である著者が一貫してアメリカ研究にこだわり続けた回想録だが、同書で二つの刺激的な発言に注目させられた。

第一は、学術論文が多くの読者をもっていないことから出てくる疑問で「せっかく自分が研究したり体験したりして学んだことを、読者三人の論文のなかに閉じこめたままでいいのだろうか。」と述べておられる。これは学問一筋に研鑽されてきた先生方には承服できない方も多いことだろう。

中途半端な研究者である小生には、これをどう理解したらいいのか苦しむが、こう考えてみた。アメリカ研究のような地域研究という新しい研究分野では、伝統的な学問の「一級資料」に当たるものは、「現地調査」では無かろうか。著者は一級資料に十分当たっているが、同時に驚くほどの現地調査をされている。同書の最後にかかれているが、過去30年あまりの間に、実に27回海外生活と海外旅行をして研究に結びつけている。

もう一つは、アメリカ研究を充実させるのに、隣国であるカナダとラテンアメリカを旅行して一歩離れたところからアメリカへの理解を深めていることである。学際的発想ではないが、隣から眺め直すことの効果は大きいだろう。この点では著者の姿勢には全面的に共鳴できるし、アメリカス学会としても、こうした態度をとることにより、ここの構成国の理解を深められると思う。             

(北詰)