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昨今、心豊かな21世紀を夢みて

               佐々木 正

 

18世紀末の産業革命以来、19世紀、科学技術の発展はヨーロッパが指導的立場をとり,所謂パクス・ブリタニカの文明を誇ったものであるが、19世紀末に至り、ヨーロッパの頭脳は次第にアメリカに渡りパクス・アメリカーナの繁栄となっていった。20世紀にはアメリカはその文明を誇ったのであるが、世の文明歴史家の間には21世紀にはパクス・ヤパーナになるだろうと文明の東洋への移動を唱える声も聞こえ始めた。

太平洋戦争後の日本の発展は、欧米のレベルに近付き、追い越す気配さえ見せる様になり、ジャパン・アズ・ナンバーワンと唱えられ非常な発展を遂げていった。そのときのパターンは、基礎研究はヨーロッパ、開発はアメリカ、生産は日本という形になっていた。これがもの作り日本の発祥である。その影響からか、80年代はアメリカは不況であって、これに対して日本は景気上昇を辿っていった。90年代に至って日本は景気過熱から91年にビッグバンを起こし平成不況に落ち込んでいった。

日本の景気上昇中にはアメリカは徹底的に日本の経営のやり方を調べ、日本の良いところを取り入れた新しい経営法を編み出した。一方、ハーバード・ビジネススクールなどは21世紀に向かって現在のエレクトロニクス業界はどう変わっていくかの予想をもっていた。例えば、NTTを中心とする通信業界、IBMを中心としたコンピュータ業界、家電製品を中心とした家電業界、事務機器を中心とした事務機業界、この四つの業界は半導体を共通基盤として融合を始め、90年代には情報産業を生み出すと予想していた。(このときマルチメディアと云う言葉が生まれた)。情報産業が生み出す情報化ネットワーク社会の出現を期待されるや、軍部が各研究所を結んでいたインターネットを解放することによって情報ネットワーク社会のため、多額の資金とネットワーク技術の創設によって景気を生み出し、過去にない繁栄を生み出した。これに対して日本は91年を境に平成不況に落ち込み、なかなか這い出ることの出来ない状況となっている。

かかる日米の社会状況の中、私が以前につとめていたシャープの様子を振り返ってみたいと思う。

シャープは60年代の家電不況を電卓の新事業によって乗り切り、1970年には当時千里に於いて開かれる万博に対して、その資金を奈良県天理市の綜合開発センターの建設に振り向けた。世にこれを「千里より天理に」といったが、この転換によって研究所、半導体事業、液晶事業へと新事業を次々生み出し、景気の上昇気流に乗っていった。

1980年頃と記憶するが、天理教本部より表統領が来られ、天理研究所でお目にかかったが、その時の天理教と天理綜合開発センターとの地縁の関係についてお話になったことは心にしみる思いがした。このことは後日「場と共創」の問題を解くとき一つの大きな潜在意識となっていることに気付いた。またこのことは、今日の日本の不況に耐え乗り切っていく素地にもなると思っている。

今のアメリカの好景気を支えているのは情報化ネットワーク産業のベンチャービジネスであり、とくにシリコンバレーのビジネスは大変な活況を呈している。東海岸から西海岸へ民族移動、東海岸の文明を吸収し、スタンフォード大学を中心としたベンチャービジネスの生態系に「ひと・もの・かね」がここに集まり、景気活性化の中心になった。人々のフロンティア精神は,産学一体化となってこの生態系の中に見事に実っていった。パソコンからインターネットへと発展、アメリカの景気を支えているのもよく理解される。これに対し、日本ではネットワーク技術(所謂IT)が約5年遅れている。これを追いかけるのも大変。規制も次第にアメリカ並になってきているので、後を追いかけることも出来るだろう。今から追い越すことも考えておかなければならない。気懸かりなのは若い人たちの意欲、老人たちの隠居気分で、これが景気回復の障害にならなければよいがと危惧している。

先日、元スタンフォード大学ビジネス部長ウィリアム教授に会ったときに、基盤は「ひと」、今シリコンバレーでは老いも若きも、ラーン(学習)をしているが、日本にきて感じるのは老いは教(ティーチ)、若きはラーン(学習)のみの有り様、時代は急変している。

アメリカでも起業の成功率は低い。これでは日本はもっと低くなるのではないだろうか。今の日本の若い人は80年代の飽食気分が残っており、老いの人は隠居気分で余生を仲良しクラブで過ごそうとしているのではないだろうか。

起業にはリーダーが夢を持ち(ドリーマー)、これを支えるマネージメントが必要であると同時に、歯に衣を着せずにズケズケものを云う人も要るのではないだろうか。

21世紀は矢張り「場と共創」がキーワードになるのではなかろうか。

21世紀の姿を予想すれば三つの相が考えられる。

 

(I) 情報ネットワーク社会(今でもインターネットに見られる

ように現実に表われている)

(II) 環境保全社会(20世紀の工業化社会が残した環境汚染を取り除き、

安心して生活出来る社会をつくる)

(III)心豊かな福祉社会(少子化、高齢化の問題を解決し、

安心して生活できる社会ををつくる)

 

この三つの社会相を保持していくためには、教育、文化、芸術等々考えられるが,情報科学、エネルギー、バイオ、新しい材料(ナノテクノロジーも含む)の開発が望まれる。

悩み多き世紀であるが、また問題解決の楽しい世紀である。

元気に21世紀を迎え、楽しく生きて行こう。

(株式会社国際基盤材料研究所社長、元シャープ株式会社副社長)