Strangers in Latin America

以下は、英米学科生のアメリカス一人旅日記。

 

真空パック保存のキューバ

  この2月の初めから30日間の期間で中南米を旅行してきた。5泊6日滞在したキューバについて書きたい。

 今回の旅行でキューバにおいてはホテルではなく今旅行者の間で密かに流行っている民宿に泊まった。現地の人の生活を垣間みる事ができるし、家の人と話しをすることができると思ったからだ。案の定、現地で買っておいた上等なラム酒(といっても安い物だが)を夕食後しこたま飲みながら宿の夫妻と話ができた。その話しを要約するとこうだ。アメリカ人の宿泊客も受け入れるけど(アメリカ人も昨今のキューバの開放政策に浴しているらしい)、連中はいばりまくってるから嫌いだ。アメリカという国も嫌いだ。日本もアメリカと付き合わない方が身のためだ。でもお金($)は欲しい。ヒゲ(フィデルのこと、ジェスチャーで示す)はよくない。Sociolismo(社会主義)もダメだ。理念はよくても生活がこれでは、といった話をキューバ人から聞けた。しかも旦那さんは元高校歴史教師、奥さんは元大学経済学教授である。理想だけでは食っていけないということだろう。さすがに知識人階級だけあって現実がわかっていると思った。

 面白い事に実際キューバに滞在していて、目と鼻の先のアメリカが強大な帝国、恐るべき脅威として、と同時にあこがれの自由と富がある夢の大陸と思えてきた。

最後にキューバの正しい楽しみ方を。ハバナ市にあるヘミングウェイの常宿だったホテルや革命博物館を見て廻ることよりも、人々と風景をこの国の60年代の歴史に思いを馳せながらじっくりと見ると面白い。私はかの地に滞在中、タイムスリップしてたかのような感覚に何度か捕らわれた。それは60年代から極端に閉鎖的な体制を採ってきたことが原因なのだろうが、60年代が現在まで真空パック保存されてきたようでノスタルジアを感じずにはいられない。まるでアメリカの田舎のよう。人々の古めな服装、動くのが不思議なくらいの50年代の車の列、ハバナ市郊外のさとうきび畑の田園風景。特に田舎に行く事を勧めたい。60年代を味わいたい方、中米やカリブ海の小国の立場から巨大なアメリカを実感してみたい方、社会主義のなれの果てを見てみたい方、キューバ行きはいかがですか?

(土屋千裕=3月卒)

 

アンティグアで沈没

 バックパッカーがよく使う言葉ですが、旅行者がある1ヶ所に長期間滞在することを「沈没」といいます。貧乏個人旅行というものは予定通りにはいかないものです。私の場合、それはアンティグアで起こりました。移動の日々に疲れ、お金の心配もしなくてはならなくなったころ、そこでスペイン語が格安で勉強できる、という話を耳にしたのがきっかけでした。

 アンティグアはグアテマラの首都グアテマラシティからバスで約1時間の場所に位置する小さな街で、世界中からスペイン語を学びたい人が集まってきています。

 私が通った学校ATABALは1日4時間 週5日間 完全マンツーマン制で授業料が週US$55。そこで紹介してもらったホームステイ先は一週間3食付きで約$40でした。

 私の1日の日課は、午前中は学校、午後は公園でインディヘナのおばちゃんとおしゃべり、夜はナイトクラブ、週末はバスに乗って近くの遺跡へ行ったり、ステイ先の家族と遊んだり、といったものでした。アンティグアでは他にもサルサのダンスのレッスンを受けたり、インディヘナのおばちゃんから織物を習ったりといったようなこともでき、到着した翌日から習い事をはじめることもできます。

 「沈没」という言葉は多くの場合ネガティブにとらえられがちで、「あそこでは沈みそうになるから気をつけて」などというアドバイスをうけることがあります。しかし、時間とお金(多くの場合、移動するより沈没するほうがお金はかかりません)の許す限り1ヶ所にとどまってみるのも悪くないものです。沈没することによって得られるものは無限とも思われるほどの時間です。

沈没者は沈没している限り、時間に縛られることがありません。時間があれば普段できないことが思う存分できます。

 公園や市場へ行って暇そうな人をつかまえて、世間話ができます。世間話をすることによって、その人達の生活を垣間見ることができます。生活する上で何を問題としていて、何を欲しがっているのかを知ることができます。現地語の練習にもなります。

 ゆっくりといろんなことを考えることができます。海外で出会う貧乏旅行者(日本人を含む)がみんな日本ではなかなか出会うことのできなさそうな人が多いのは、旅行中にいろんなことを考えているからではないでしょうか。そんな人達から自分と違った考えを聞くこともいい経験になります。そういう人達と帰ってきた後も交流を続けていくことは自分にとって必ずプラスになると信じています。

 沈没は必ずしも悪いことばかりではありません。沈没者の中には麻薬に手を染めてしまう人も多くいますが、自分なりにきちんと対処すれば人生を棒に振るようなことにはならないでしょう。

 スペイン語はアメリカスを知るうえにおいて不可欠な言語です。中米を旅行する予定の方は、アンティグアで沈没してみてはいかがでしょうか。

(吉福成人=4年次生)

 

「嫌いだが必要な米国」

 私がエルサルバドル、ニカラグアを訪れたのは1999年2月であった。当初は、これらの国が目的ではなく、グァテマラでスペイン語学校に通うつもりであった。 当時、私の中では中米=内戦というのが成り立っていたぐらいに中米については内戦という偏見以外何の知識もなかった。しかもそれを助長するかのように、聞こえてくるこれらの国々の評判といえば、「危険」、「何もない」、「人がよくない」というマイナスイメージでしかなかった。さらにそのときはハリケーン「ミッチ」が襲ってあまり間もない時であったので、ここを余暇で楽しむ人は皆無に近かった。そんな中で私がエルサルバドル、ニカラグアに訪れようとした理由は、単に危険ならどれぐらい危険なのか、何もないならどれほど何もないのかといった好奇心であった。 

 そして行った結果、私の中米、米国の見方が180度変わった。中米の国々はそれぞれひとつの独立国でありながら、いかに米国がこれらの国の政治、経済、社会に深く関与してきたかがよくわかった。その行き過ぎがエルサルバドル、ニカラグアで起こった社会革命であり、内戦であったのだ。つまり、米国が火付け役であり油であった。 だからいかに米国がすばらしい国であるとはいえ、それはどこかがその犠牲を払っているのだ。 

 我々にとって遠いこれらの国の情報といえば、そのほとんどが米国経由であるので物事の実態というのが見えてこない。しかし実際にそこに足を踏み入れて目の当たりにするのは、強大な力を振るう暴君の米国とそれに屈する小国である。しかし皮肉なことに、それら小国が発展を望めば望むほど米国との距離は近づくのである。私は機会があってニカラグアのレオンでFSLN(サンディニスタ民族解放戦線、1978年に反米共産主義を掲げて革命を起こした)の幹部に会うことができた。彼が言ったのは。「我々は米国が嫌いだ。しかし我々に今必要なのは米国の力である」。この言葉は本当に印象的だった。十数年間、反米思想で戦ってきた左翼政党が米国を必要としているのだ。これはもはやイディオロギーが朽ちて,実益が優先する証拠である。しかしこれら中米諸国のこれからの最大の敵は、己の反米感情ではないだろうか。これを乗り越えない限り彼らが望む発展はないだろう。

     (高橋正明=3年次生)