Lateral Thinking

キューバの村八分解除へ?

 国際関係の歴史をひもといていくと、しばしば対立している二つの国が和解する前に一度、かなりの緊張が起こる。キューバと米国の関係を一歩離れて見ていると、いまがその時のような気がする。

 エリアン・ゴンザレス君の悲劇の漂流騒動、在米キューバ外交官の追放など両国関係は急速に悪化しているように見える。だがキューバが「革命の輸出」をやめ、周辺の国々との関係をよくするどころか、米国人自身が「対キューバ経済制裁解除」の日に備え、着実にキューバに入り込んでいる。

 本年早々、キューバの首都ハバナでは米国の健康医療品の見本市を開いたところ、米97社がこれに参加して、大にぎわいだったという。米政府は経済制裁を続けているとはいえ、人道上の理由で医療品の輸出は認めているから問題はない。カストロ政権が革命を起こしてから丁度40年、キューバ国内での米国産品の見本市開催は初めてのことである。

 さらに3月初めには同じハバナでキューバ葉巻関係の買い付け競売会が行われ、多数の米国人が他国人を装って現れたという。その他の貿易関係の米国財界人のキューバ入りも後を絶たない。

 もちろんカストロ国家評議会議長は強気である。昨秋の国連総会でキューバに対する40年にわたる経済制裁の解除を訴える要請が賛成155票、反対2票(米国とイスラエル)、棄権8票で可決されており、世界の大勢はキューバの国際社会への全面復帰を望んでいるからだ。

 ただソ連の消滅で同国からの経済援助がなくなっている現在、かなり経済復興しているとはいえ、社会情勢は容易ではない。キューバの発表する復興状況を示す数字はまだ信頼できない。

 その点では、筆者は1979年9月ハバナで行われた非同盟国首脳会議を取材したとき、興味ある経験をした。まだ冷戦時代で、様々な障害があったが、世界中から集まったジャーナリストたちにキューバを宣伝する最高のチャンスだった。ラム酒とともに忘れられない味覚を楽しませてくれたのは、langosta(英語のlobster)と呼ばれる小形の伊勢エビの塩焼き。ホテルで格安で食べられたので、朝から賞味しながら、経済が苦しくてもこんなものが食べられるなら、キューバも悪くないなと感心した。

 やがて会議が終わり、帰任することになった朝、突然ハリケーンがこの国を襲い、飛行機がキャンセルになった。またあれが食べられるとニヤリとして、仲間とすぐにレストランにいったのだが、lasngosta が影も形もない。一日で完全に消えてしまった。

 後でわかったのだが、langostaは貴重な輸出用品でキューバの人々の口にはいることはなく、この会議の期間中だけ、世界中のジャーナリストに大盤振る舞いしたのだった。キューバ経済の復興が本物で、人々は社会主義のもとで人々は楽しい生活を送っているというカストロ議長の話が本当かどうかを確かめるため、langostaの姿を見に行きたいものである。

 それはともかく、クリントン米大統領がなんといおうと、米国の財界はすでにキューバの経済制裁解除を前提として、米議会を含めてすべてが動き出している。そうなれば、アメリカス世界の情勢も大きく好転する。

 どこかの国と同じ、解散権は首相の専権事項といくら唱えても、与党の議員たちが「その日」に備えて走り回り出したら、首相も選択の余地がなくなってくる。大統領選挙にどう利用するかがせめてもの考慮の材料だろう。        

(北詰洋一)