Letter from New York

柔軟性ある履修登録

 また新学期の履修登録のシーズンになりました。ビンガムトン大学の履修科目リストには、複数の登録番号がついているコースがいくつもあります。例えば、女性解放運動を主題にした比較文学のコースは女性学のコースとしても登録でき、中世の美術史のコースは、芸術、歴史、文学としてもとることができます。これらのコースは interdisciplinary (複数の学術分野にまたがった)コースと呼ばれ、専攻の異なった学生の必須単位を満たすことができるようになっています。州立大学にしては比較的小さく、各学科の履修科目数に制限があるせいもありますが、学生に多岐にわたる分野における学問の機会を与えることが最大の目的です。

 履修科目だけでなく、専攻分野においてもこのような柔軟性が見られます。アメリカの大学では入学した時点では専攻分野が決まっていないので、一般教養の教科をとりながら将来の方向を決めることができます。一旦決めた専攻分野を次の学期に変更することも可能なので、生物学を勉強するつもりだったのが、一般の美術のクラスで自分の才能に気付いてアーティストを目指すことにした・・・などというケースもあります。つまり、大学入学後にもモラトリアムの期間を持つことができるわけです。

 とりたいコースや希望する学科が大学にない場合にもすぐにあきらめてはいけません。他の大学でとった単位が卒業単位の一部として認められるのは当然のことで、夏休み中や、一学期間、一年間と、一定の期間中よその大学で勉強することも可能だからです。つまり、海外の大学に留学するのと同じように、国内留学をするわけです。ボストンなどのように大学が密集している地域では、2つ以上の大学を行き来することもめずらしくありません。違う環境で色々

な人に出会い学ぶことは、知識を深め、幅広い人格を形成するための手段としても重要であると考えられているのです。

 とくに上級レベルのコースであれば、教授に independent study(個人学習制度)を依頼することも可能です。内容は担当の教員と相談の上で決め、週に1時間程度の個人面談の時間以外は自分でリーディングの課題をこなし、レポートを書きます。やる気だけでなく、自分でリサーチを進める能力が要求されるので、決して容易い学習法ではありませんが、どうしても勉強したいトピックがある場合、やり甲斐のあるコースを自分で築くことができるわけです。教員にとっては、independent study を引き受けることは担当の講義以外の時間とエネルギーを費やすことを意味するので、断わるのも自由です。学生側としても依頼するにあたり、それなりの覚悟が必要で、説得性のあるトピックと教材を準備する必要があるのです。

 大学によっては、勉強したい分野が学部として存在していない場合にも、専攻が認められることがあります。例えば、ビンガムトン大学には IPB(Innovational Projects Board)と呼ばれる特別プロジェクト委員会があり、希望進路に適した専門分野がない場合、学生がこの委員会に出席して特別措置を要請することができます。委員会から承認を得るためには、学生は10ページ程度の申請書、担当教授の推薦状などの書類を提出し、様々な分野の教員9名から構成される委員の居並ぶ場で、特別専攻のための意義を発表します。学生が「証拠物件」を前に自分の説の正当性を立証する様子は、陪審員制度の裁判さながらの風景が展開されます。委員の多数決によって特別専攻を許可された学生は、必須単位をこなしていきます。申請を拒否された学生も、上訴と同じように2回までの再申請のチャンスを与えられます。

 このように、教育制度の中にも、個人の意見やニーズ、特別な能力を尊重するアメリカ社会の個人主義やデモクラシーの精神がうかがわれます。柔軟性があり、能力とやる気さえあれば可能性に富んだ教育の場で、意外な自分を発見する学生も少なくありません。

 (佐藤奈津)